ロールス・ロイス装甲車

ロールス・ロイス装甲車：戦場を駆け抜けた名車の軌跡

ロールス・ロイスという名から連想されるのは、高級乗用車でしょう。しかし、その歴史には、豪華なサルーンカーとは対照的な、勇敢な戦車が存在します。第一次世界大戦中にイギリス海軍航空隊（RNAS）が開発したロールス・ロイス装甲車は、その堅牢性と信頼性から、世界各地の戦場で活躍しました。本稿では、その開発から戦歴、派生型、そして現存する車両まで、詳しく解説していきます。

開発の経緯

第一次世界大戦勃発を受け、イギリス海軍航空隊は装甲車部隊の設立を決定しました。1914年、ロールス・ロイス社は、主力車種であるシルヴァーゴーストのシャシーを、新型装甲車の開発に提供するよう要請を受けました。改良されたエンジンを搭載したシャシーは、高い信頼性を誇り、軍用車両の基盤として最適でした。

航空司令官T・G・ヘザーリントンによる設計案は、ヴィッカース機関銃を搭載した砲塔と、堅牢な装甲ボディを組み合わせたものでした。1914年末には試作車が完成し、配備が始まりました。しかし、西部戦線での塹壕戦には不向きだったため、その活躍の場は限定的なものとなりました。

シャシー生産は1917年に終了しますが、その高い信頼性と性能から、1920年代に入っても改良が続けられ、1920年型、1924年型といった派生モデルが製造されました。1940年には、エジプトの第11軽騎兵連隊にも配備され、旧式の砲塔を撤去し、ボーイズ対戦車ライフルなどを装備した近代化改修が施された車両も存在しました。また、一部の車両はフォードソントラックのシャーシを利用した「フォードソン装甲車」として運用されました。

戦歴

ロールス・ロイス装甲車は、第一次世界大戦でイギリス海軍航空隊によって編成された6個中隊の主力車両として活躍しました。フランス、アフリカ、ガリポリなど、様々な戦線に投入されました。泥濘地や塹壕戦には不向きでしたが、近東の砂漠地帯ではその機動性と信頼性を発揮しました。

特に有名なのは、アラビアのロレンスことT・E・ロレンスが率いた部隊での活躍です。彼は、オスマン帝国軍との戦闘でロールス・ロイス装甲車部隊を指揮し、その功績は『砂漠の反乱』に記されています。ロレンスは、これらの装甲車を「ルビーよりも貴重」と評したという逸話も残っています。

第一次世界大戦後も、その活躍は続きます。アイルランド内戦では、イギリス政府からアイルランド自由国政府に譲渡され、市街戦やゲリラ戦で重要な役割を果たしました。維持管理の問題や、アイルランドの気候への不適合にもかかわらず、1940年代半ばまで使用されました。

第二次世界大戦でも北アフリカや中東で活躍し、1941年頃まで前線で運用されました。その後、新型装甲車の配備により退役。一部はインドなどでも使用されました。

派生型

ロールス・ロイス装甲車は、基本設計をベースにいくつかの派生型が製造されました。1920年型、1924年型は、装甲や武装の強化、砲塔の追加などが行われたモデルです。また、インドで使用された「インド型」は、車体を延長し、より強力な武装を搭載したモデルでした。前述の通り、フォードソントラックのシャーシを用いた「フォードソン装甲車」も存在しました。

現存車両

現在、いくつかのロールス・ロイス装甲車が現存しており、博物館などで展示されています。イギリスのボービントン戦車博物館には1920年型が展示されており、博物館の貴重なコレクションの一つとなっています。アイルランドにも、アイルランド内戦で使用された車両が保存されており、歴史的遺産として大切に保護されています。

まとめ

ロールス・ロイス装甲車は、その豪華なイメージとは対照的な、戦場を駆け抜けた堅牢な軍用車両でした。第一次世界大戦から第二次世界大戦、そしてアイルランド内戦まで、世界各地の戦場でその存在感を示し、数々の歴史的出来事に深く関わっています。その歴史と活躍は、今もなお人々の記憶に刻まれています。

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