ワシントン (BB-47)

アメリカ海軍の未完の戦艦「ワシントン」

ワシントン（USS Washington, BB-47）は、アメリカ海軍が建造を計画したコロラド級戦艦の3番艦です。艦名はアメリカ合衆国42番目の州であるワシントン州に由来し、同名の艦としては8代目にあたります。しかし、ワシントンは完成することなく、その生涯を終えることになりました。

起工から進水、そして建造中止へ

1919年 6月30日、ワシントンはニュージャージー州カムデンのニューヨーク造船所で起工されました。1921年4月1日の時点で、コロラド級戦艦の進捗状況は、コロラドが69.3%、メリーランドが96.8%、ワシントンが61.2%、ウェストバージニアが49.5%と公表されています。同年9月1日には進水しましたが、その後の運命はワシントン海軍軍縮条約によって大きく左右されることになります。

ワシントン海軍軍縮会議は1921年 11月に始まり、アメリカ海軍は当時就役済みであった16インチ砲搭載戦艦メリーランドに加え、コロラドとワシントンを建造する方針でした。しかし、1922年2月6日のワシントン海軍軍縮条約締結により、戦艦保有枠が削減された結果、アメリカ海軍は既存のメリーランドに加えて、ウェストバージニア級戦艦2隻（コロラド、ウェストバージニア）を保有することに決定しました。そのため、ニューヨーク造船所で建造が進められていたワシントンは、工事進捗度約80%の段階で建造中止となったのです。

この決定の背景には、失業対策や作業量割り当ての兼ね合いも存在していました。ニューポート・ニューズ造船所で建造されていたウェストバージニアが建造続行となった一方で、ワシントンは廃艦対象となってしまったのです。

標的艦としての最期

廃棄が決まったワシントンは、1924年 11月、ヴァージニア岬沖で標的艦としての役割を担うことになります。当時、アメリカ陸軍のウィリアム・ミッチェル大佐は、賠償艦であったドイツのヘルゴラント級戦艦「オストフリースラント」を爆撃実験で撃沈したことを受け、「航空機で戦艦を撃沈できる」と主張していました。しかし、ワシントンの実験は、アメリカ海軍自身が実施することになります。

まず、11月21日には、14インチ砲を装備したニューヨーク級戦艦がワシントンへ砲撃を行いましたが、その効果は限定的でした。14発の14インチ砲弾が命中したものの、装甲を貫通したのはわずか1発のみでした。次いで11月23日、ワシントンは航空爆弾と航空魚雷の標的となり、2発の魚雷と3発の1.1ショートトン爆弾の至近弾を受けましたが、損傷は軽微でした。さらに、400ポンド爆弾の空中炸裂による至近爆発にも耐え、その堅牢さを示しました。

しかし、11月25日、戦艦「ニューヨーク」と「テキサス」による砲撃で14インチ砲弾14発が命中すると、ワシントンは浸水し、ついに沈没しました。

実験がもたらした教訓

この一連の実射実験により、アメリカ海軍は「既存の戦艦の装甲防御は不十分である」という結論に至りました。この結果、以降に建造される戦艦には多重防御の強化（三重底など）が採用されるきっかけとなりました。一方で、航空攻撃では戦艦を撃沈することができなかったこと、近代的防御を持つ軍艦が爆撃に対して強靭であることが証明されたことも事実です。ミッチェルは海軍が事実を隠していると批判しましたが、この実験は後の戦艦設計に大きな影響を与えることになったのです。

ワシントンは、その短い生涯の中で、アメリカ海軍の戦艦設計思想に大きな転換点をもたらしました。未完成のまま沈んだ悲劇の戦艦ですが、その教訓は後世に受け継がれていったのです。

艦歴

1919年 6月30日: ニューヨーク造船所にて起工
1921年 9月1日: 進水
1922年2月8日: 工事進歩率75.9%の状態で建造中止
1923年 11月10日: 廃棄決定
1924年 11月23日: 実射標的艦となる
1924年 11月25日: 砲撃により沈没

参考文献

「世界の艦船」海人社
1990年1月号増刊『アメリカ戦艦史』 1989年
2012年10月号増刊『アメリカ戦艦史』 2012年
太平洋戦史シリーズ 58『アメリカの戦艦』（ISBN 978-4056046922）学研プラス：刊 2007年
福井静夫著「未曾有の実験艦土佐の最後」、阿部安雄、戸高一成編『福井静夫著作集 ― 軍艦七十五年回想　第二巻日本戦艦物語〔Ⅱ〕』光人社、1992年8月。ISBN 4-7698-0608-6。
福井静夫著、阿部安雄、戸高一成編『新装版　福井静夫著作集 ― 軍艦七十五年回想第六巻世界戦艦物語』光人社、2009年3月。ISBN 978-4-7698-1426-9。
ドナルド・マッキンタイヤー著、寺井義守訳「1.海軍航空化への道ひらく」『空母　日米機動部隊の激突』株式会社サンケイ出版〈第二次世界大戦文庫23〉、1985年10月。ISBN 4-383-02415-7。
イヴァン・ミュージカント著、中村定訳『戦艦ワシントン　米主力戦艦から見た太平洋戦争』光人社、1988年12月。ISBN 4-7698-0418-0。
ミリタリー・クラシックス編集部、執筆（松代守弘、瀬戸利春、福田誠、伊藤龍太郎）、図面作成（田村紀雄、こがしゅうと、多田圭一）「第二章　アメリカの戦艦」『第二次大戦世界の戦艦』イカロス出版〈ミリタリー選書6〉、2005年9月。ISBN 4-87149-719-4。
歴史群像編集部編『アメリカの空母　対日戦を勝利に導いた艦隊航空兵力のプラットフォーム』学習研究社〈歴史群像太平洋戦史シリーズ　Vol.53〉、2006年2月。ISBN 4-05-604263-2。
歴史群像編集部編『アメリカの戦艦　「テキサス」から「アイオワ」級まで四〇余年にわたる発達史』学習研究社〈歴史群像太平洋戦史シリーズ　Vol.58〉、2007年5月。ISBN 978-4-05-604692-2。

外部リンク

Washington (BB-47), construction cancelled 1922 - ウェイバックマシン（2001年2月17日アーカイブ分）
Maritimequest USS Washington BB-47 Photo Gallery
NavSource Online: Battleship Photo Archive BB-47 WASHINGTON Keel Laying - Launching
* NavSource Online: Battleship Photo Archive BB-47 WASHINGTON Construction - Sinking

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