ワレリー・クバソフ

ワレリー・ニコラエビッチ・クバソフ

ワレリー・ニコラエビッチ・クバソフ（1935年1月7日 - 2014年2月19日）は、ソビエト連邦を代表する宇宙飛行士の一人です。彼はそのキャリアを通じて、ソユーズ計画における重要なミッションに複数回参加しました。

クバソフの最初の宇宙飛行は、1969年のソユーズ6号ミッションでした。この飛行で、彼はフライト・エンジニアとしてゲオルギー・ショーニンと共に搭乗しました。このミッションの主な目的の一つは、宇宙空間における金属の溶接技術を実証することであり、軌道モジュール内部に設置された自動レーザー溶接装置を用いた実験が行われました。しかし、この実験中に予期せぬ事態が発生します。レーザーの照準が不正確であったため、溶接対象だけでなく、軌道モジュールの船体そのものに損傷を与えてしまったのです。開いた穴は空気漏れ寸前となるほどの深さでした。クバソフは迅速に溶接済みの試料を回収し、危険を回避するため帰還モジュールへ退避しました。この状況を受け、地上からの指示により、ソユーズ6号は計画を短縮して直ちに地球への帰還を余儀なくされました。

続くソユーズ11号ミッションでは、クバソフは再び宇宙へ向かうクルーの一員に選ばれていました。アレクセイ・レオーノフ、ピョートル・コロディンと共に、宇宙ステーション「サリュート1号」へのドッキングを目指す予定でした。ところが、打ち上げ前のX線検査で彼の肺に影が見つかり、結核であると診断されてしまいます。この診断結果により、クバソフを含む正規クルーはミッションから外されることとなりました。しかし、この降板が彼の命を救うことになります。ソユーズ11号は、宇宙ステーションでの滞在を終えて地球へ帰還する途中で空気漏れ事故を起こし、搭乗していた交代クルー3名全員が帰還カプセル内で死亡するという悲劇に見舞われたのです。クバソフと、彼と共に降板したレオーノフ、コロディンは、自身の病気（クバソフの場合は誤診でしたが）によって、この事故から奇しくも逃れることができました。後に、彼が結核であるという当初の診断が誤りであったことが判明します。

ソユーズ11号の悲劇と誤診による降板という特異な経験の後も、クバソフは宇宙飛行士としてのキャリアを続けました。1975年には、歴史的なアポロ・ソユーズテスト計画の一環であるソユーズ19号に、アレクセイ・レオーノフと共に搭乗しました。これはアメリカ合衆国の宇宙船アポロとのドッキングに成功し、冷戦下における米ソの宇宙開発協力を象徴するミッションとなりました。

さらに、インターコスモスプログラム（ソ連が友好国と共同で行った宇宙飛行計画）においても重要な役割を果たしました。1980年には、ソユーズ36号の船長としてハンガリー人宇宙飛行士のファルカシュ・ベルタランと共に宇宙へ旅立ち、軌道上の宇宙ステーション「サリュート6号」にドッキングし、比較的長期にわたる宇宙滞在を行いました。

クバソフは、これらの宇宙飛行ミッションに加え、後の宇宙ステーション開発にも貢献しています。特に、ミール宇宙ステーションの開発プロジェクトにも関与していたことが知られています。

1993年3月にソビエト連邦の宇宙開発プログラムから引退した後、彼は宇宙産業の分野に留まりました。ロシアの大手宇宙開発企業RKKエネルギアでは副長官を務めました。

ワレリー・ニコラエビッチ・クバソフは、2014年2月19日にモスクワでその生涯を閉じました。彼は、宇宙飛行士としての卓越した技量と、ソユーズ11号事故を巡る劇的な運命によって、宇宙開発史において記憶される人物です。

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