ワン・プラス・ワン

『ワン・プラス・ワン/悪魔を憐れむ歌』：ゴダールの革命とロックの交響曲

1968年、社会変革のうねりが世界を覆っていた時代。ジャン＝リュック・ゴダール監督は、ザ・ローリング・ストーンズのレコーディングスタジオにカメラを据え、『ワン・プラス・ワン』（英題：One Plus One、アメリカ公開時タイトル：Sympathy for the Devil）という異色のドキュメンタリー映画を制作しました。この作品は、単なる音楽ドキュメンタリーにとどまらず、当時の社会運動や政治状況を反映した、実験的で挑発的な内容となっています。

映画は、ストーンズがアルバム『ベガーズ・バンケット』収録の代表曲『悪魔を憐れむ歌』のレコーディングに臨む様子を克明に捉えています。ミック・ジャガー、キース・リチャーズといったメンバーの緊迫感あふれる演奏や、バンド内部の微妙な人間関係、特に当時バンド内での存在感が薄れ始めていたブライアン・ジョーンズの不安定な姿などが赤裸々に映し出されています。レコーディング風景は、単なる記録にとどまらず、ゴダール独自の編集やカメラワークによって、一種のドラマチックな緊張感を生み出しています。

しかし、『ワン・プラス・ワン』は、単なる音楽ドキュメンタリーではありません。レコーディング風景と並行して、1968年の激動する社会情勢が巧みに織り込まれています。ゴダールは、ブラックパンサー党のエルドリッジ・クレヴァーや反戦運動の活動家トム・ヘイデンへのインタビューを挿入し、当時のアメリカ社会の激動と、反体制的なムードを鮮やかに描き出しています。これらのインタビューは、ストーンズのレコーディング風景と対比的に配置され、音楽と政治、個と社会という異なる要素が複雑に絡み合い、観る者に多様な解釈を促します。

映画には、革命的なヒロインを演じるアンヌ・ヴィアゼムスキーや、ファシストを象徴するポルノ書店店主など、象徴的な登場人物が登場します。彼らは、映画全体に漂う混沌とした雰囲気と、当時の社会的な対立構造を鮮やかに表現しています。さらに、映画の終盤には、撮影クレーンが海の上を延々と伸びていくという、象徴的なシーンが登場。これは、映画全体を覆う不安定さと、ゴダール自身の映画表現に対する実験的な姿勢を象徴していると言えるでしょう。

『ワン・プラス・ワン』は、単なる音楽映画や政治ドキュメンタリーを超えた、ゴダール監督ならではの挑戦的な作品です。1968年という時代背景、ザ・ローリング・ストーンズという象徴的なバンド、そしてゴダール自身の革新的な映画表現が融合し、視聴者に強烈なインパクトを与えます。音楽、政治、映画制作という異なる要素が複雑に絡み合い、その多層的な構造は、繰り返し鑑賞するごとに新たな発見を与えてくれるでしょう。この映画は、ゴダールの作品の中でも、特に時代性を強く反映した、歴史的にも重要な作品の一つと言えるでしょう。

1978年に日本で初公開されて以来、幾度となく再上映され、DVDも発売されています。現在でも、その実験的な映像表現と、時代を反映したメッセージは、多くの人々を魅了し続けています。この作品は、単なるエンターテイメント作品を超え、現代社会を考える上でも貴重な示唆を与えてくれる、不朽の名作と言えるでしょう。

スタッフ・キャスト:

監督・脚本：ジャン＝リュック・ゴダール
音楽：ザ・ローリング・ストーンズ
キャスト：ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、ブライアン・ジョーンズ、チャーリー・ワッツ、ビル・ワイマン、アンヌ・ヴィアゼムスキー、他

関連事項:

ジャン＝リュック・ゴダール監督作品一覧
ザ・ローリング・ストーンズ
ブラックパンサー党
* 『ワン・アメリカン・ムービー』

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