ワン・モア・カー、ワン・モア・ライダー〜ベスト・ライヴ

『ワン・モア・カー、ワン・モア・ライダー〜ベスト・ライヴ』は、イギリスが誇る伝説的なギタリスト、エリック・クラプトンが2002年にリリースしたライブ・アルバムです。彼のキャリアを通じて数多くのライブ盤が発表されてきましたが、本作は21世紀に入って間もない時期の、円熟期を迎えたクラプトンの演奏を記録した貴重な作品と言えます。アルバムタイトルは、ライブの終わりに観客へ感謝を伝えるクラプトンの言葉に由来するとされており、ライブの熱気とミュージシャンと観客の繋がりを示唆しています。

この作品は、CDとDVDという二つの異なるメディアで発表されました。CD盤には19曲が収録されており、アコースティックセットからブルース、そしてエレクトリックによるバンド演奏まで、多様なスタイルの楽曲を楽しむことができます。一方、同名のDVD盤は、CDの収録曲に加えて、バンドメンバーであるビリー・プレストンがリードボーカルとキーボードを務めるファンキーな楽曲「Will It Go Round In Circles」が追加された全20曲構成となっています。ライブの臨場感を視覚的にも捉えたDVD版は、CDとはまた異なる魅力を持っており、当時のライブ全体の雰囲気をより深く感じることができます。

収録されている楽曲は、クラプトンの長いキャリアを網羅するかのような選曲となっています。ディスク1には、悲しい別れを歌った「ティアーズ・イン・ヘヴン」や、アコースティックな響きが心地よい「チェンジ・ザ・ワールド」、そしてパーソナルな感情を綴った「ファーザーズ・アイ」などが収められています。これらの楽曲は、彼のアンプラグド以降の活動を象徴するような、感情豊かな歌唱と繊細なギターワークが光るテイクです。また、「レプタイル」や「ガット・ユー・オン・マイ・マインド」といった楽曲も含まれ、ライブならではのリラックスした雰囲気が伝わってきます。

ディスク2になると、サウンドはよりエレクトリックでパワフルなものへと移行します。「バッジ」や「コカイン」、「ワンダフル・トゥナイト」、そして言わずと知れた代表曲「いとしのレイラ」といった、クリームやデレク・アンド・ザ・ドミノス時代からの名曲が次々と演奏されます。ライブ終盤の盛り上がりを形成するこれらの楽曲では、クラプトンの代名詞とも言えるブルースを基調としたギターソロが存分に披露されており、ファンを熱狂させます。さらに、「フーチー・クーチー・マン」や「ハヴ・ユー・エヴァー・ラヴド・ア・ウーマン」といったブルースのスタンダードも選曲されており、彼の音楽性の根幹にあるブルースへの深い愛情と敬意が示されています。ライブの締めくくりには、インストゥルメンタルによる「オーヴァー・ザ・レインボウ」が配置され、感動的な余韻を残します。

このライブを支えたバンドメンバーも豪華な顔ぶれです。エリック・クラプトン自身がボーカルとギターを担当するのはもちろん、彼の長年の音楽的パートナーであるアンディ・フェアウェザー・ロウがギターで参加し、サウンドに厚みを加えています。キーボード陣には、ソウルフルなプレイで知られるビリー・プレストン、そしてグレッグ・フィリンゲインズとデヴィッド・サンシャスが名を連ね、楽曲に彩りと深みを与えています。そしてリズムセクションは、ベーシストのネイザン・イーストと、正確無比なドラミングで名高いスティーヴ・ガッドという鉄壁の布陣です。これらの名プレイヤーたちが一体となった演奏は、クラプトンのギターと歌唱を力強く、そして時に優しく支え、ライブ全体の完成度を高めています。

『ワン・モア・カー、ワン・モア・ライダー〜ベスト・ライヴ』は、2002年という時期におけるエリック・クラプトンのライブパフォーマンスを、高品位なサウンドで捉えた優れたライブ・アルバムです。代表曲の新たな解釈、ブルースへの回帰、そして素晴らしいバンドメンバーとの化学反応が詰まった本作は、彼のファンはもちろん、これから彼の音楽に触れるリスナーにとっても、彼の魅力を知る上で格好の入門盤となるでしょう。これは間違いありません。ライブ盤ならではの生々しいエネルギーと、円熟したミュージシャンシップが光る、聴き応えのある作品と言えるでしょう。

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