ヴァイオリンソナタ第2番 (プロコフィエフ)

プロコフィエフ：ヴァイオリンソナタ第2番

セルゲイ・プロコフィエフのヴァイオリンソナタ第2番ニ長調作品94bisは、珍しい成り立ちを持つ室内楽曲です。この作品は、元々1942年から1943年にかけて作曲されたフルートソナタ ニ長調 作品94を、後に作曲者自身がヴァイオリンとピアノのために改編したものです。ヴァイオリンソナタとしては先に着手されたものの未完成に終わっていた第1番が存在したため、この改作版が「第2番」として位置づけられています。

フルートソナタ作品94の誕生

原曲であるフルートソナタ 作品94は、第二次世界大戦中の独ソ戦が激化する困難な時期に生まれました。プロコフィエフは戦況を避けるためモスクワを離れ、国内各地に疎開していました。作品に着手したのは1942年9月、中央アジアのアルマアタ（現在のアルマトイ）でのことですが、楽想の元となるスケッチは数年前にすでに存在していたとされます。翌1943年8月にはウラル地方のペルミで完成を迎えました。

初演は1943年12月7日、モスクワにおいて、フルート奏者のニコライ・ハリコフスキーとピアニストのスヴャトスラフ・リヒテルという名手たちによって行われました。初演は聴衆から好意的に迎えられましたが、このソナタが当時のフルート奏者の主要レパートリーとして定着することは残念ながらありませんでした。結果として、これがヴァイオリン版への改作を促す一因となります。

ただし、後にこのフルートソナタも再評価されるようになります。特に1970年代にジェームズ・ゴールウェイとマルタ・アルゲリッチによる録音が話題を呼んで以降、フルート版としても演奏・録音される機会が増えています。現代では、フルート奏者が演奏する際には、プロコフィエフが書いたオリジナルのフルートパートをそのままではなく、ヴァイオリン版の改作を参照し、ヴァイオリンパートの音形などを取り入れてフルートパートに手を加えることが一般的になっています。

ヴァイオリンソナタ作品94bisへの改作

フルートソナタの初演を聴いたヴァイオリン界の巨匠ダヴィッド・オイストラフは、その音楽的価値に深く感銘を受け、プロコフィエフにこの作品をヴァイオリンとピアノのために改作することを熱心に勧めました。フルート奏者による演奏機会が少なかったこともあり、プロコフィエフもこの提案を受け入れます。

改作は1944年、戦時下のモスクワで行われました。プロコフィエフは改作作業にあたり、オイストラフからヴァイオリンという楽器の特性に関する実践的な助言を得たとされています。改変の中心となったのは、フルートのために書かれていた旋律楽器のパートです。ピアノパートはフルートソナタの原曲から変更されませんでしたが、フルートパートはヴァイオリンの持つ音域や演奏技法に合わせて音形などが慎重に変更され、ヴァイオリンパートとして生まれ変わりました。

このヴァイオリンソナタ第2番は、ヴァイオリン奏者のヨーゼフ・シゲティに献呈されています。

初演は改作完成直後の1944年6月17日、モスクワで行われました。ヴァイオリンは作品の改作を勧めたオイストラフ自身が担当し、ピアノはレフ・オボーリンが務めました。このヴァイオリン版は原曲のフルート版以上に広く受け入れられ、その後プロコフィエフの代表的な室内楽曲として、世界中のヴァイオリン奏者にとって重要なレパートリーの一つとなりました。

楽曲構成

ヴァイオリンソナタ第2番は、原曲であるフルートソナタと同様に、以下の4つの楽章から構成されています。全曲を通しての演奏時間は約23分で、これはフルートのためのソナタとしては比較的長大な規模です。

1. 第1楽章：Moderato（モデラート）、ニ長調、4分の4拍子。
2. 第2楽章：Presto（プレスト）、イ短調、4分の3拍子。
3. 第3楽章：Andante（アンダンテ）、ヘ長調、4分の2拍子。
4. 第4楽章：Allegro con brio（アレグロ・コン・ブリオ）、ニ長調、4分の4拍子。

各楽章は調性やキャラクターが対照的でありながら、全体として統一感のある音楽を形成しています。特にヴァイオリン版では、改変されたパートがヴァイオリンの豊かな表現力を引き出し、作品に新たな魅力を加えています。

もう一度検索