ヴァリアント歩兵戦車

A38 ヴァリアント歩兵戦車：第二次世界大戦におけるイギリス戦車開発の失敗例

第二次世界大戦中、イギリス軍は様々な戦車の開発に奔走しました。その中には、成功を収めたものもあれば、A38 ヴァリアント歩兵戦車のように、設計上の欠陥により悪名高いものもありました。本稿では、このA38 ヴァリアント歩兵戦車の開発経緯、構造上の問題点、そして、なぜ「最悪の戦車の一つ」と評されたのかを詳細に解説します。

概要：軽量化を優先した結果

A38 ヴァリアント歩兵戦車は、重装甲で軽量な突撃戦車を目指して計画されました。同時期に開発されたA33エクセルシアー重突撃戦車と同様のコンセプトでしたが、エクセルシアーの40トンに対し、ヴァリアントは27トンという大幅な軽量化を目指しました。この軽量化によって、エクセルシアーと同等の114mmの正面装甲を実現しようとしましたが、そのために様々な妥協を強いられることとなり、結果として多くの問題を抱える戦車となってしまいました。

戦時中の逼迫した生産体制下、経験の浅い重工業会社が開発を担当したことも、この戦車の失敗に繋がりました。性能よりも生産性を優先せざるを得なかった状況が、設計上の問題をさらに悪化させたと言えるでしょう。

戦後、イギリス陸軍戦車技術学校では、ヴァリアントが学生たちの教育教材として使用されました。学生たちは、この戦車の設計上の欠陥を分析することで、良い反面教師として学ぶことになったのです。

開発：困難を極めた開発過程

1943年12月、イギリス軍は極東での使用を想定した小型で重装甲な戦車の開発を決定。ヴィッカース社が開発を担当することになりました。しかし、ヴィッカース社は既に戦時体制下で多忙を極めており、開発は系列会社、そしてさらに子会社であるルーストン・アンド・ホーンズビー社に委託されることになりました。両社とも戦車開発の経験が乏しく、開発は難航しました。

1944年には試作車が完成。バレンタイン歩兵戦車に似たシルエットながら、大型の砲塔と近代的な足回りを持つ戦車でした。しかし、アメリカ製のゼネラルモーターズ6004ディーゼルエンジンは出力不足で、装甲にはボイラー用の軟鉄鋼板が使用されたため、非装甲を示すプレートまで取り付けられる始末でした。

1945年5月に行われた戦闘車両検査協会による試験では、わずか21kmの走行で試験は中止。操縦装置の操作性、特に操縦レバーとブレーキペダルの重さと反動の大きさから、操縦手の疲労と負傷の危険性が指摘され、開発計画は中止されました。

構造：数々の設計上の問題点

ヴァリアントの車体は、バレンタイン歩兵戦車と類似していましたが、溶接構造ではなく、マチルダ歩兵戦車のような鋳造装甲部品を鋲接した構造でした。また、独立懸架ユニットは戦闘走行時の脆弱性が懸念され、不整地走行試験は行われませんでした。

低出力の210馬力ディーゼルエンジンは、最高速度を19.2km/hに制限。当時の戦車としては極端に低速でした。砲塔は3名乗員を収容できる大きさでしたが、砲塔側面の垂直に近い構造や、内蔵式の防楯は被弾時の危険性を高めました。さらに、車体前方機銃の欠如も、歩兵支援という役割において大きな問題点でした。

派生型：重ヴァリアント

ヴァリアントIIや重ヴァリアントといった派生型も計画されましたが、いずれも計画のみに終わり、試作車は作られませんでした。重ヴァリアントは、ヴァリアントの砲塔と操縦室をA33エクセルシアーの車体に搭載したものでした。より強力なエンジンを搭載する計画もありましたが、これも実現しませんでした。

結論：教訓を残した失敗作

A38 ヴァリアント歩兵戦車は、軽量化を優先した結果、多くの問題を抱える戦車となってしまいました。その設計上の欠陥は、戦後も長く、戦車技術学校で学生たちの教育教材として使用されることによって、後世に教訓を残すこととなりました。現在、ボービントン戦車博物館に展示されている唯一の試作車は、今もなお「最悪の戦車の一つ」として認識され、戦車設計における教訓を私たちに示し続けています。

もう一度検索