ヴァルター・ヴェンク

ヴァルター・ヴェンク：第二次世界大戦末期の「少年将軍」

ヴァルター・ヴェンク（Walther Wenck, 1900年9月18日 - 1982年5月1日）は、ドイツ陸軍の軍人であり、最終階級は陸軍装甲兵大将でした。彼は、ドイツ国防軍において最年少の軍司令官として知られています。第二次世界大戦末期には第12軍を指揮し、ドイツ国防軍の将兵たちが東側ではなく西側に降伏できるよう尽力しました。ベルリンの戦いにおいては、首都防衛の重要な役割を担うことになっていました。

大戦中には「少年将軍」（The Boy General）というニックネームで呼ばれていました。

生涯

若年期

1900年9月18日、ザクセン＝アンハルト州のヴィッテンベルクで生まれました。彼の父親もまた軍人でした。ナウムブルクで士官候補生としてプロイセン陸軍に入隊し、第一次世界大戦末期の1918年にはリヒターフェルデ陸軍士官学校に入学しました。しかし、在学中にドイツは敗戦し、ヴェンク自身は従軍することはありませんでした。

ドイツ敗戦後、フライコーアのラインハルト義勇連隊（Freiwilligen-Regiment Reinhard）を経て、1921年にライヒスヴェーア（ヴァイマル共和国軍）に採用されました。1923年にはミュンヘンの歩兵学校で学び、由緒ある第9歩兵連隊に配属され、少尉に任官しました。1928年に結婚し、1930年には双子の父親となっています。

自動車部隊（ヴェルサイユ条約で保有が禁止されていた戦車部隊の偽装名称）に志願し、1933年にはベルリンの第3自動車大隊に転属、自動車部隊総監だったハインツ・グデーリアン中佐（当時）の知遇を得ました。1934年、大尉に昇進。1935年からはベルリンの陸軍大学校で学びました。翌年の卒業後、参謀本部の装甲課に勤務し、同時にハンス・フォン・ゼークト元参謀総長の副官を務めました。1938年、第2装甲連隊で中隊長に任命され、1939年1月には第1装甲師団参謀となりました。

第二次世界大戦

1939年の第二次世界大戦勃発と共に少佐に昇進。9月18日に第二級鉄十字章を受章し、翌月には第一級鉄十字章を受章しました。翌年の西方電撃戦ではベルフォール攻略において卓越した戦略手腕を発揮し、中佐に昇進しました。1942年には大佐に昇進し、ベルリンの陸軍大学校教官となりました。同年、第57装甲軍団参謀長となりますが、すぐにルーマニア軍のペトレ・ドゥミトレスク大将の下で参謀長を務め、ルーマニア軍を実質的に指導しました。ルーマニア第3軍はスターリングラード攻防戦に参加しましたが、1942年11月19日に始まったソ連軍の天王星作戦で攻勢の矢面に立たされ、攻勢5日目に撃破され、第3軍は事実上壊滅しました。12月28日、騎士鉄十字章を受章。1943年、少将に昇進し、エーベルハルト・フォン・マッケンゼン大将の第1装甲軍で参謀長を務めました。1944年にはA軍集団参謀長に転じました。同年7月のヒトラー暗殺未遂事件後にはグデーリアン参謀総長の下で統帥部長となりましたが、翌年2月に交通事故で重傷を負い辞職しました。

1945年4月7日、ヴェンクはベルリンの西側から迫り来るアメリカ軍、イギリス軍と対峙するために新設された第12軍の司令官に任命されました。同時に装甲兵大将に昇進（前年10月に遡及しての昇進とされました）。しかし、ドイツ軍はすでに東西両戦線で連合軍に押されていました。その結果、第12軍はエルベ川東岸に布陣せざるを得なくなり、そこでベルリンを脱出してきた避難民の難民キャンプを形成していました。ヴェンクはこれらの避難民に食料や住居を確保するために奔走し、一説には当時毎日約50万人に食事を提供していたと見積もられています。

ベルリン最後の希望

1945年4月21日、アドルフ・ヒトラーはフェリックス・シュタイナー親衛隊大将に、ベルリンを北方より包囲していたソビエト赤軍第1白ロシア方面軍（司令官ジューコフ）に攻撃するよう命令を下しました。当時、ヒトラーのお気に入りであったシュタイナーはシュタイナー戦闘団を率いてジューコフと相対していましたが、防戦一方でした。シュタイナー戦闘団は歩兵部隊が主幹であり、戦車をほとんど所有しておらず、ベルリン救援を行って将兵の無駄な消耗することを望みませんでした。結局、シュタイナーは命令を拒否し、それどころかソビエト赤軍に包囲されつつある自らの軍団の全滅を避けるために撤退することを希望しました。

4月22日にシュタイナーが撤退したため、第12軍はベルリン救援の最後の望みとなりました。ヴェンクはエルベ川でアメリカ軍と対峙中でしたが、東に進撃してベルリンの南に滞在する第9軍（司令官テオドール・ブッセ）と共同でベルリンを包囲しているソビエト赤軍を攻撃するよう命令されました。一方、ベルリン北方の第41装甲軍団（司令官ルードルフ・ホルステ）は、北からソビエト赤軍を攻撃するよう命令されました。ただし、第41装甲軍団はシュタイナー戦闘団の消耗し、疲弊仕切った部隊から送られてきたものでした。

4月23日、ヴェンクは第12軍将兵に向かって語りかけました。

「諸君にはもう一度、苦労してもらわなければならない。すでにベルリン、ドイツが問題なのではない、戦闘とソビエト赤軍から民衆を救うことが諸君の責務である。」

当時、第12軍で工兵であったハンス・ディートリヒ・ゲンシャーは、このとき「忠誠、責任、そして連帯感」を感じたと記述しています。攻撃に参加したシャルンホスト師団の大隊長は「東でイワン（ロシア人を指す）どもと戦うための急行軍だ」と書きました。

第12軍配下の第20軍団による予想外の攻撃でベルリンを包囲しているソ連軍は驚愕し、混乱を起こしました。第12軍所属の第20軍団は果敢にベルリン方面へ進撃を行い、30kmほど前進しましたが、ソビエト赤軍の強い抵抗にあい、ポツダム近郊で停止しました。一方、第9軍は、ベルリンへはほとんど前進できませんでした。4月27日深夜までにソビエト赤軍は再びベルリンを包囲し、ベルリンは完全に孤立無援となりました。1945年4月28日、ハンス・クレープス参謀長は、総統官邸からヴィルヘルム・カイテル国防軍最高司令部総長へ最後の電話をしました。クレープスは、救援が48時間以内に到着しないならば、すべてが灰塵に化すだろうとカイテルに話しました。カイテルは、ヴェンクとブッセへ強く働きかけると約束しました。

4月28日の夜、ヴェンクは総統官邸内のドイツ国防軍最高司令部に、第12軍が全面においてソ連軍に押し戻されたと報告しました。第12軍はポツダム守備隊（シュプレー軍集団、司令官ヘルムート・ライマン）との一時的な接触を確立することが精一杯でした。第12軍は第9軍からの支援がもはや期待できず、ベルリンの救援は事実上、不可能でした。 4月29日夕方遅く、クレープスはアルフレート・ヨードル国防軍作戦部長に「即座に報告せよ。第一に、ヴェンク軍の所在位置。第二に攻撃開始時間。第三に第9軍の所在位置。第四に、第9軍が突破する正確な場所。第五にルードルフ・ホルステ軍の所在位置。」と無線連絡しました。4月30日の早朝には、ヨードルはクレープスに答えました。「第一に、ヴェンク軍は、シュヴィロー湖の南で進撃停止。第二に、ベルリンへの進撃を続行できない。第三に、第9軍はほとんどが包囲されている。第四に、ホルステ軍は守備で手一杯である。よって、当方からのベルリン救援はあらゆる場所において継続不可である。」

ベルリンを救援するヴェンクの試みが実行不可になりつつあったので、ハルベの山岳地帯へ第12軍を動かす計画に変更されました。そこで、ヴェンクは第9軍とポツダム守備隊の残存と接触する予定でした。ヴェンクは、できるだけ多くのベルリン避難民に西側への脱出ルートを提供したかったのです（当時、捕虜規定について定められていたハーグ陸戦条約にソ連は調印していなかった為、ソ連への降伏は想像を絶するものになると想像されていました）。

ヴェンクは攻撃の最深部で、メッセージを送りました。

「こちら避難路を確保しつつ待機中、急がれたし。」

連合軍の攻撃にもかかわらず、ヴェンクは、エルベ川対岸の米軍による占領地域に比較的スムーズに第12軍、第9軍の残存兵と多くの避難民を送り込みました。ヴェンク軍が確保した避難路で最大250,000人の難民（第9軍の最大25,000人の将兵を含む）がソ連の進撃よりも前に米軍占領区へ逃げることができたと考えられています。

第二次世界大戦後

ドイツ敗戦後の5月に第12軍はシュテンダール市庁舎前でアメリカ軍に降伏し、ヴェンクは捕虜となりました。1947年のクリスマスに釈放され、1948年からボーフムで機械販売会社でセールスに従事、1955年には社長に就任しています。1956年に西ドイツで再建されたドイツ連邦軍で最高司令官就任が予定されましたが、実際に設置された総監ではなく最高司令官就任を要求したため、結局実現しませんでした。1960年からニュルンベルクで軍需産業会社のオーナーとなりましたが、1966年に引退しました。

1982年にバート・ローテンフェルデで自動車事故のため死去しました。

受章

鉄十字章
第二級鉄十字章（1939年）
第一級鉄十字章（1939年）
騎士鉄十字章（1942年）
ドイツ十字章金章（1942年）

脚注

参考文献

Dermot Bradley: Walther Wenck - General der Panzertruppe. Biblio, Osnabrück 1982; ISBN 3764812834.
Günther W. Gellermann: Die Armee Wenck. Hitlers letzte Hoffnung. Aufstellung, Einsatz und Ende der 12. deutschen Armee im Frühjahr 1945. Bernard U. Graefe Verlag, ISBN 3-7637-5870-4
Ziemke, Earl F. Battle For Berlin: End Of The Third Reich, NY:Ballantine Books, London:Macdomald & Co, 1969.
* Antony Beevor. Berlin: The Downfall 1945, Penguin Books, 2002, ISBN 0-670-88695-5

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