ヴァレンティン・セローフ

ヴァレンティン・セローフ：ロシアを代表する肖像画家

ヴァレンティン・アレクサンドロヴィチ・セローフ（1865年1月19日 - 1911年12月5日）は、ロシア帝国時代を代表する画家の一人であり、特に卓越した肖像画家としてその名を歴史に刻んでいます。彼の作品は、単なる外見の描写にとどまらず、モデルの内面までをも捉える深い洞察力に満ちています。

生涯

生い立ちと教育

セローフは、作曲家アレクサンドル・セローフと、同じく作曲家であるヴァレンチナ・セミョーノヴナ・セーロヴァの息子としてサンクトペテルブルクに生まれました。幼少期から芸術に触れる機会に恵まれ、パリやモスクワでイリヤ・レーピンに師事し、その後、帝国美術アカデミーでパヴェル・チスチャコフに学びました。

レーピンの写実主義とチスチャコフの厳格な教育は、セローフの初期の作風に大きな影響を与えました。また、ロシアや西ヨーロッパの美術館で巨匠たちの作品に触れたこと、ミハイル・ヴルーベリやコンスタンチン・コローヴィンといった芸術家との交流も、彼の芸術性を育む上で重要な役割を果たしました。アブラムツェヴォの芸術家村での創造的な雰囲気も、セローフの作風に影響を与えた要素の一つとして挙げられます。

肖像画家としての台頭

セローフの初期の代表作として知られるのが、「桃を持った少女」（1887年）と「陽光を浴びる少女」（1888年）です。これらの作品は、自然光を捉えた色彩豊かな表現と、モデルの自然な姿を捉えた描写が特徴的で、初期ロシア印象派の先駆けとも言えます。特に、光の描写と色彩の調和、そして生き生きとした人物描写は、彼の才能を際立たせています。

1890年代に入ると、セローフは肖像画を主要なジャンルとして活動するようになります。初期の肖像画は、モデルの心理的な特徴を鋭く捉えた描写が特徴的で、俳優、芸術家、作家など、様々な人物を描きました。初期には、多色を抑え、灰色、黒、茶色などの色調を好んで使用し、印象派的な特徴は、時折、作品の構図に現れる程度でした。同時期のジョン・シンガー・サージェントやアンデシュ・ソーンのように、セローフは印象派の理論をそのまま受け入れるのではなく、フランス・ハルスやディエゴ・ベラスケスの研究から多くを学び、独自のスタイルを確立しました。

セローフの人気は高く、1894年には移動展覧会協会に参加し、その後、大公パーヴェル・アレクサンドロヴィチ、S.M.ボトキン、F.F.ユスポヴァ、公女オリガ・オルロヴァなど、多くの著名人からの肖像画の依頼を受けました。これらの肖像画は、構図の巧みさ、威厳ある態度、装飾的で調和のとれた色彩、そしてリズミカルな線描が特徴です。同時に、彼は子供や女性の内面を捉えた親密な室内肖像画も多く手掛けました。子供の純粋さや内なる動きを捉えた作品は、自然なポーズと表情で見る者を魅了します。また、水彩、パステル、リトグラフなど、様々な技法を積極的に取り入れ、晩年には、より洗練された無駄のないグラフィックな表現へと移行しました。

1890年から1900年にかけて、セローフは芸術的な方向性を転換し、田園風景を題材とした作品も多く残しました。

後半期と社会活動

1887年、セローフはオリガ・トルゥフニコバと結婚し、妻と子供たちは彼の作品の重要なモチーフとなりました。特に、「子供たち」という作品には、彼の息子であるユーラとサーシャが描かれています。

1900年代に入ると、セローフは巡回展運動に不満を抱くようになり、「芸術世界」という影響力のあるロシアの芸術団体のメンバーになりました。この時期、セローフの作風は大きな転換期を迎え、印象派的な特徴は影を潜め、モダニズム的な要素を取り入れるようになります。しかし、彼の主題に対する誠実さと現実的な視点は変わらず、20世紀初頭には、作家、俳優、音楽家など、芸術家の表情豊かな描写に焦点を当てた英雄的な肖像画を描きました。

セローフの民主的な信念は、1905年から1907年の革命時に明確に示されました。彼は風刺的な絵を数多く描き、1903年から帝国美術アカデミーの正会員でしたが、1905年の血の日曜日事件に抗議して辞任しました。晩年には、歴史的な絵画にも挑戦し、歴史的な出来事を深みのある視点から描き出しました。晩年には、古典神話の主題による作品も目立ち、古代の伝統的なイメージを個人的な解釈で描きました。

1911年12月5日、セローフはモスクワで亡くなり、ノヴォデヴィチ墓地に埋葬されました。

遺産

セローフの作品は、ロシア写実主義の最高峰の一つとして評価されています。彼は1897年から1909年までモスクワ美術学校で教鞭をとり、パーヴェル・クズネツォフ、ニコライ・サプノフ、マルティロス・サリアン、クジマ・ペトロフ＝ヴォートキン、N.P.ウリヤーノフ、コンスタンチン・ユオンなど、多くの才能ある画家を育成しました。

1978年にソ連の天文学者リュドミーラ・ジュラヴリョーワによって発見された小惑星3547セローフは、彼の名にちなんで命名されました。

主な作品

桃を持った少女（1887年）
陽光を浴びる少女（1888年）
コンスタンチン・コローヴィン（1891年）
イサーク・レヴィタン（1893年）
ニコライ・レスコフ（1894年）
ニコライ・リムスキー＝コルサコフ（1898年）
子供達（1899年）
ミカ・モロゾフ（1901年）
マキシム・ゴーリキーの肖像画（1904年）
マリヤ・イェロモロヴァ（1905年）
フョードル・シャリアピン（1905年）
狩猟に出発するピョートル2世と皇后エリザヴェータ・ペトロヴナ（1900年）
ピョートル1世（1907年）

脚注

外部リンク

Valentin Serov official website
* Valentin Serov. Biography and the best pictures. Excellent quality of reproductions.

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