桃を持った少女

ヴァレンティン・セローフ『桃を持った少女』

『桃を持った少女』(または『桃と少女』)は、ロシアの画家ヴァレンティン・セローフが1887年に描いた、彼の代表作の一つとされる絵画です。この作品は、セローフの友人であり伝記作家・美術史家であるイゴール・グラバーリによって「ロシア絵画の傑作」と称賛されました。また、そのスタイルはフランス印象派の影響を受けていると指摘されていますが、セローフ自身がこの作品を完成させた当時は、印象派の作品に精通していたわけではなかったとされています。

作品の背景

この絵は、モスクワ近郊のアブラムツェヴォにある、ロシアの起業家サーヴァ・マモントフの邸宅で描かれました。モデルとなったのは、当時11歳だったマモントフの娘、ヴェラ・マモントフです。アブラムツェヴォは、作家セルゲイ・アクサーコフによってロシア芸術文化の中心地の一つとなり、その後、サーヴァ・マモントフがこの地を購入し、芸術村として発展させました。この地には、画家のイリヤ・レーピン、作家のイワン・ツルゲーネフ、画家のミハイル・ヴルーベリ、彫刻家のマーク・アントコルスキーなど、多くの芸術家が集まり、活発な交流が行われました。アブラムツェヴォは、芸術的な議論の場であると同時に、芸術家たちが共に生活を楽しむ場所でもありました。

作品の歴史

『桃を持った少女』は、1887年にモスクワ芸術愛好家協会の展示会で最優秀賞を受賞しました。この作品は、セローフの才能を広く知らしめるきっかけとなり、ロシア美術史における重要な作品として位置づけられています。

インターネットミームとしての再注目

近年、『桃を持った少女』はインターネットミームとして再び注目を集めています。特にロシアでは、この絵を題材にした様々なパロディやユーモラスな改変が作られました。例えば、少女の前に豪華な料理が並んだり、別の人物やキャラクターに置き換えられたりしています。2014年には、少女の前に大量の料理が並べられた「桃を持った少女：フルバージョン」というミームが登場し、話題となりました。このミームは、ロシアのプーチン大統領も知っていることが判明し、驚きをもって迎えられました。なぜなら、プーチン大統領はインターネットを時事ニュースなどの有益な情報を得る目的でしか利用しないと信じられていたからです。

モデル：ヴェラ・マモントフ

作者であるセローフは、幼い頃からヴェラを知っていました。彼は頻繁にアブラムツェヴォのマモントフ邸を訪れ、時にはそこに長期間滞在していたからです。セローフは当時を振り返り、「彼女は自然な子供の無邪気さ、誠実さをそのまま持っていた」と語っています。

『桃を持った少女』以降のヴェラ

ヴェラはその後、ヴィクトル・ヴァスネツォフの作品「少女と楓の枝」（1896年）でも描かれています。1903年には、モスクワ貴族連盟の長であり、聖務会院の将来の主任検察官であったアレクサンドル・ドミートリエヴィチ・サマリンと結婚し、3人の子供をもうけました。しかし、結婚から4年後の1907年、32歳で肺炎により亡くなり、アブラムツェヴォに埋葬されました。

参考資料

* 桃を持った少女 - トレチャコフ美術館（ウェイバックマシン , 2016年3月5日アーカイブ分）

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