ヴァンガード1号

ヴァンガード1号：宇宙開発初期の遺産

ヴァンガード1号は、1958年 3月17日にアメリカ合衆国によって打ち上げられた人工衛星です。これは人類が宇宙空間に送り出した4番目の衛星であり、特に太陽電池パネルを動力源として利用した世界初の事例として歴史に名を刻んでいます。ヴァンガード1号は1964年まで地球との交信を続け、その後も軌道を維持しています。2013年3月の時点では、地球周回軌道上に存在する人類が打ち上げた物体の中で、最も古いものの一つとなっています。この衛星は、ヴァンガード計画の一環として、ロケットの性能検証や、宇宙環境が衛星に与える影響、そして地球を周回する軌道上での挙動などを詳細に試験するために設計されました。また、ヴァンガード1号の精密な軌道データの解析から、地球が単純な回転楕円体ではなく、南北でわずかに異なる形状をしていることなど、重要な科学的知見がもたらされました。

衛星の構造と設計思想

ヴァンガード1号は、アルミニウム製の小さな球体をしており、その重さはわずか1.47キログラム、直径は165ミリメートルです。電源として、水銀電池で動作する10mW、108MHzの送信機と、衛星本体の外側に取り付けられた6つの太陽光発電セルで駆動する5mW、108.08MHzの送信機の二種類を搭載していました。本体からは6本の短いアンテナが突き出ています。これらの送信機は、主に衛星の内部状態を監視したり、地上局からの追跡によってその正確な軌道位置を特定したりするために使われました。さらに、これらの電波信号は、衛星と地上局の間に存在する電離層内の電子総数を計測する目的でも利用されました。衛星内部にはサーミスタが内蔵されており、打ち上げ後16日間にわたって内部温度が測定され、衛星の断熱性能が検証されました。なお、このヴァンガード1号のバックアップ機が、カンザスコスモスフィア・宇宙センターに展示されています。

ヴァンガード1号の設計には、開発初期における様々な検討がありました。当初、アメリカ海軍研究所は円錐形の衛星を提案しましたが、フェアリングからの分離や排出機構に関わる複雑さから、この案は見送られました。衛星の追跡については、電波信号を利用した軌道測定が計画の中心でしたが、初期段階では光学追跡も補助的な手段として加えられました。科学者チームは、追跡や大気抵抗のモデル化において、一定の光反射率と抵抗係数を持つ球形（直径20-30インチ希望）が有利であると推奨しました。最終的に、今後の大型衛星開発に向けた「テスト機」として、直径6.4インチ（約16.5cm）の球形衛星に合意されました。

軌道と運用期間

ヴァンガード1号は、ヴァンガード計画の3段式ロケットによって、周期134.2分、軌道傾斜角34.25度、高度654キロメートルから3969キロメートルの楕円軌道に投入されました。当初の予測では、この軌道は2000年間維持されると考えられていました。しかし、予想を上回る高レベルな太陽活動の影響による太陽輻射圧と大気抵抗が軌道減衰を加速させ、期待されていた寿命は約240年程度と再見積もりされました。ヴァンガード1号は打ち上げからおよそ7年間にわたって、地球周回軌道上から観測信号を送信し続けました。

科学的成果

地球形状の精密測定

搭載された送信機からの電波ビーコンは、電波追跡システムによって精密に追跡され、ヴァンガード1号の軌跡が詳細に記録されました。この高精度な軌道データを解析した結果、地球の形状が、これまで考えられていたような単純な回転楕円体ではなく、南北方向でわずかに非対称な形をしていることが明らかになりました。特に、北半球がわずかに平坦で、南半球がわずかに膨らんだその形状は、「洋ナシ形」に喩えられることもあります。また、これらの電波信号は、地上局と衛星の間にある電離層に含まれる全電子数を算出するためにも利用され、宇宙空間における電波伝搬の研究にも貢献しました。水銀電池駆動の送信機は内部温度データを16日間、位置追跡信号を20日間送信後、電池寿命を終えました。一方、太陽電池で動く送信機は6年以上も機能し続けましたが、その信号は徐々に弱まり、1964年にエクアドルのキトで最後の信号が受信されました。以降、衛星は主に光学的な手段によって追跡されています。

上層大気密度の解明

ヴァンガード1号の滑らかで均衡の取れた球形を利用し、科学者が高度、緯度、季節、そして太陽活動といった様々な要因が上層大気の密度に与える影響を研究するためのツールとして活用されました。衛星は、宇宙空間にわずかに存在する残留大気の抵抗を受けて、予測された位置よりもわずかに遅れが生じました。この遅れは時間と共に蓄積され、徐々に大きくなっていきました。衛星の既知の抵抗特性と、計測された速度および軌道シフトのタイミングから、当時の上層大気の適切なパラメータを逆算することが可能になりました。この解析によって、当時の大気圧とそれによる抵抗が予想よりも高く、それまで考えられていたよりも、大気が宇宙空間へ向かってより緩やかに薄まっていることが明らかになりました。ヴァンガード計画で打ち上げられた3機の衛星は現在も軌道上にあり、その抵抗特性は本質的に変化しないため、半世紀以上にわたる上層大気密度の基準データを提供し続けています。

最古の人工物としての記録

ヴァンガード1号は、地球軌道上に現存する人工物の中で最も長い間宇宙空間に存在し続けているという記録を保持しています。2008年3月17日には、打ち上げから50周年を迎えました。この歴史的な節目を記念して、アメリカ海軍研究所や米国科学アカデミーなどが記念イベントを開催し、その歴史的な業績を讃えました。

もう一度検索