ヴァン・ダー・グラフ・ジェネレーター

イングランドを代表するプログレッシブ・ロック・グループの一つ、ヴァン・ダー・グラフ・ジェネレーター（Van der Graaf Generator）。略称はVDGG。その音楽性は、中心人物であるボーカリスト兼詩人、ピーター・ハミルの独特な世界観と深い内省的な歌詞、そして演劇的な表現力に色濃く彩られています。複雑かつ時に実験的なサウンドは、同時代のバンドとは一線を画し、イタリアなどを中心に熱狂的な支持を得ました。1970年代に幾度かの変遷と解散を経験しますが、2000年代半ばに再始動を果たし、現在も活動を続けています。

活動の軌跡

バンドは1967年にピーター・ハミルとクリス・ジャッジ・スミスを中心に結成されました。初期はサイケデリック・ロックの要素も見られましたが、次第にハミルの哲学的な歌詞と抑揚に富むボーカルが音楽性の核となっていきます。メンバーの加入と脱退を繰り返しながら、1969年にはハミルのソロ企画として始まった録音が結果的にファースト・アルバム『エアゾール・グレイ・マシーン』としてVDGG名義で発表されます。

1970年代に入ると、ヒュー・バントン（オルガン、ベース）、デヴィッド・ジャクソン（サックス、フルート）、ガイ・エヴァンス（ドラムス）といった主要メンバーが揃い、バンドはカリスマ・レコードと契約。この時期、バントンの教会音楽を思わせるオルガンと、ジャクソンが2本のサックスを同時に演奏するダブル・ホーンを特徴とする独自のサウンドを確立し、『ザ・リースト・ウィ・キャン・ドゥ・イズ・ウェイヴ・トゥ・イーチ・アザー』、『天地創造』、『ポーン・ハーツ』といった重要作を生み出します。しかし、1972年に一度解散。

1974年にハミル、バントン、ジャクソン、エヴァンスの黄金期メンバーで再結成し、『ゴッドブラフ』、『スティル・ライフ』、『ワールド・レコード』といった傑作を発表しますが、1976年にバントンが脱退。その後、ヴァイオリン奏者のグレアム・スミスやチェロ奏者のチャールズ・ディッキーらが参加し、バンド名を「ヴァン・ダー・グラフ」と短縮するなど変化を見せますが、1978年に再び解散しました。

長い沈黙を経て、2005年にハミル、バントン、ジャクソン、エヴァンスの布陣で「ヴァン・ダー・グラフ・ジェネレーター」として再々結成。アルバム『プレゼント』を発表し、活動を再開しました。2007年にジャクソンが脱退して以降は、ハミル、バントン、エヴァンスのトリオ編成で活動しており、『トライセクター』、『違心伝新 - ア・グラウンディング・イン・ナンバーズ』、『ドゥ・ノット・ディスターブ』などの作品を発表しています。また、日本では2008年と2012年にライブを行いました。

音楽性の特徴

VDGGのサウンドは、ピーター・ハミルの文学的かつ哲学的な歌詞と、それを表現するための多彩で感情豊かなボーカルが中心に据えられています。叙情的でありながらも時に狂気すら感じさせるハミルの歌唱は、演劇的な楽曲展開と密接に結びついています。

音楽的な変遷としては、初期のサイケデリック色から、バントンのオルガンとジャクソンの管楽器を中心とした構築的なアンサンブル、そして1970年代半ばにはハミルのエレクトリック・ギターが加わりサウンドに厚みが増しました。1977年頃の「ヴァン・ダー・グラフ」名義の時期は、管楽器に代わりグレアム・スミスのヴァイオリンが重要な役割を果たし、よりアグレッシヴでポストパンクにも通じるようなアプローチを見せました。再始動後のトリオ編成では、バントンのオルガンとハミルのギター・ピアノがサウンドを主導しています。

逸話など

バンド名「ヴァン・ダー・グラフ・ジェネレーター」は、静電気を起こす「ヴァンデグラフ起電機」に由来しており、結成メンバーの一人クリス・ジャッジ・スミスによって名付けられました。

キング・クリムゾンのギタリスト、ロバート・フリップはVDGGの音楽性を高く評価しており、アルバム『天地創造』や『ポーン・ハーツ』にゲスト参加しています。

また、4thアルバム『ポーン・ハーツ』は、当初2枚組LPとして構想されており、未発表のライブ音源やメンバーのソロ曲が含まれる予定でした。これらの楽曲の一部は、後のCD再発時にボーナス・トラックとして収録され、幻のオリジナル構想を垣間見ることができます。

主要メンバー（現行）

ピーター・ハミル (Peter Hammill) - ボーカル、ギター、キーボード
ヒュー・バントン (Hugh Banton) - オルガン、ベース、キーボード
ガイ・エヴァンス (Guy Evans) - ドラムス、パーカッション

ディスコグラフィ（抜粋）

スタジオ・アルバム

『エアゾール・グレイ・マシーン』(1969)
『ザ・リースト・ウィ・キャン・ドゥ・イズ・ウェイヴ・トゥ・イーチ・アザー』(1970)
『天地創造』(1970)
『ポーン・ハーツ』(1971)
『ゴッドブラフ』(1975)
『スティル・ライフ』(1976)
『ワールド・レコード』(1976)
『ザ・クワイエット・ゾーン／ザ・プレジャー・ドーム』(1977)
『プレゼント』(2005)
『トライセクター』(2008)
『違心伝新 - ア・グラウンディング・イン・ナンバーズ』(2011)
『ドゥ・ノット・ディスターブ』(2016)

ライブ・アルバム

『ヴァイタル』(1978)
* 『リアル・タイム - ロイヤル・フェスティヴァル・ホール』(2007)

VDGGは、その妥協のない独自の音楽性で、プログレッシブ・ロック史において重要な位置を占めるバンドです。

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