ヴィェルバルク文化

ヴィェルバルク文化：バルト海から黒海北部へ

はじめに

ヴィェルバルク文化は、紀元1世紀から3世紀にかけて、現在のポーランド北部からウクライナにかけて広がった考古学文化です。特にゴート族との関連性が強く指摘されており、その広がりや文化の特徴から、古代ゲルマン社会を知る上で重要な手がかりを与えてくれます。本稿では、ヴィェルバルク文化の起源、展開、特徴、そして周辺文化との関係性について解説します。

起源と展開

ヴィェルバルク文化の起源は、東ポメラニア地方のオクシヴィエ文化にあると推定されています。1873年、マルボルク近郊のヴィェルバルク（Wielbark）で3000基以上の墓が発見されたことが、この文化の命名の契機となりました。初期のヴィェルバルク文化はグダニスク周辺に栄えましたが、3世紀前半にはバルト海沿岸から離れ、ビスワ川流域を遡上し、ウクライナ北部へと移動していったと考えられています。この移動は、バルト海沿岸地域の人口減少と関係している可能性があります。

ウクライナ北部では、サルマタイ人とスラヴ人の文化であるチェルニャコヴォ文化と混交し、キエフ文化の形成に影響を与えたと考えられています。一方、ポメラニア地方に残留した勢力は、西方のエルベ川沿岸地方の文化と融合し、デンプチン文化へと発展していきました。

特徴：埋葬と装飾品

ヴィェルバルク文化の顕著な特徴は、火葬と土葬が混在する埋葬様式です。墓地は丸石を円錐状に積んだストーンサークルを特徴とし、墓標は独立して設置されるのが一般的でした。副葬品は武器が少なく、装飾品や衣服が中心です。青銅器や金製品が多く、銀や鉄は少ないのが特徴で、墓に納められた装飾品の量から身分差があったことが示唆されています。

装飾品の様式から、ヴィェルバルク文化は「Wielbark-Lubowidz期（10～160年頃）」と「Wielbark-Cecele期（160～230年頃）」に大別されます。それぞれの時期で装飾様式はさらに細分化され、時代ごとの変化が見て取れます。

マルコマンニ戦争の影響

ヴィェルバルク文化の変遷には、1世紀後半から2世紀にかけて起こったマルコマンニ戦争が影響を与えたと考えられています。この戦争でゴート族はヴァンダル族と同盟を結びましたが、ヴィェルバルク文化圏は戦争の直接的な戦闘地域からは離れていました。にも関わらず、この戦争の時期に、ヴィェルバルク文化はヴァンダル族のプシェヴォルスク文化圏に拡大し、ビスワ川東岸に沿って南下していったと推測されています。

ゴート族との関連性

考古学的年代と、古代ローマの歴史家タキトゥスの『ゲルマーニア』の記述から、ヴィェルバルク文化の担い手はゴート族を中心とするゲルマン民族であったと考えられています。他にヘルリ族、ゲピート族、タイファリ族、ルギ族なども含まれていた可能性があります。

結論

ヴィェルバルク文化は、その広がり、独自の埋葬文化、装飾品、そして周辺文化との複雑な関係性を通じて、古代ゲルマン社会、特にゴート族の歴史を理解する上で非常に重要な考古学文化です。今後の研究によって、さらに詳細な歴史像が明らかになることが期待されます。


参考文献

Heather, Peter “The Goths” Blackwell publishers


関連項目

ゴート族
ヴァンダル族
デンプチン文化
オクシヴィエ文化
チェルニャコヴォ文化
キエフ文化
プシェヴォルスク文化

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