ヴィクラント (空母・初代)

インド海軍航空母艦 ヴィクラント

インド海軍の歴史において、航空母艦「ヴィクラント（INS Vikrant）」は初めて空母を保有・運用した画期的な存在です。本艦は、元々はイギリス海軍が第二次世界大戦中に建造していたマジェスティック級航空母艦「ハーキュリーズ（HMS Hercules）」として起工されましたが、終戦に伴い建造が中断された状態でした。インドはこの未完成艦を取得し、自国海軍の航空母艦として完成させたのです。

建造から就役まで

ヴィクラントとなる船体は、1943年11月12日にイギリスのヴィッカース・アームストロング社で「ハーキュリーズ」として起工されました。しかし、戦争終結後の1945年9月22日に進水したものの、建造工事は1946年5月に中断され、長らく係留されていました。

1957年1月、インドによって購入されることが決定し、北アイルランドのベルファストにあるハーランド・ヴォルフ社にて工事が再開されました。この際、運用能力向上のため、アングルド・デッキ（斜め着艦用飛行甲板）や蒸気カタパルトなどの近代的な設備が新たに設置されるなど、大規模な改装が行われました。

改修を終えた船体は、インド海軍の航空母艦「ヴィクラント」として1961年3月4日に竣工。同年11月3日にはボンベイ（現在のムンバイ）にて正式に就役しました。

運用艦載機と戦歴

就役当初、ヴィクラントにはイギリス製のシーホーク艦上戦闘機、フランス製のアリゼ対潜哨戒機、アルエットIII汎用ヘリコプターなどが搭載されていました。

1965年の第二次印パ戦争の際にはまだ改修工事中であったため、直接の戦闘には参加していません。しかし、インドとパキスタンの間で戦われた1971年の第三次印パ戦争では、ヴィクラントはその能力を十分に発揮しました。東部戦線にあたるベンガル湾で作戦行動を展開し、搭載していた艦載機部隊は、パキスタン海軍の艦艇を攻撃し、これを撃破するなど、インド側の勝利に大きく貢献しました。

近代化改装

ヴィクラントは、その長い艦歴の中でいくつかの近代化改装を受けました。1982年から1983年にかけて行われた改装では、シーホークの後継機として、イギリス製のシーハリアー垂直/短距離離着陸機を運用できるよう能力が付与されました。

さらに、1987年から1989年にかけての改装では、搭載されていたアリゼ対潜哨戒機の退役に伴い、カタパルトが撤去されました。その代わりに、シーハリアーの運用効率を高めるための9.75°のスキージャンプ勾配が飛行甲板前部に設置されました。

退役とその後の運命

1990年代前半に入ると、ヴィクラントは艦体の老朽化が進み、作戦活動が次第に不活発になっていきました。そして、1997年1月31日、インド海軍から正式に除籍され、その任務を終えました。

退役後、ヴィクラントはムンバイにて博物館船として一般に公開されました。第二次世界大戦中にイギリスで建造された空母の中で、この時点で唯一現存していた艦として貴重な存在でした。しかし、博物館としての公開は2012年に終了。その後は競売にかけられ、最終的には2015年半ばまでにスクラップとして解体されることとなりました。

後継艦計画

ヴィクラントの後継艦を整備する計画は、1993年頃から「ADS（Air Defence Ship）」という仮称で検討されていましたが、予算確保の問題から一度は立ち消えとなりました。この計画は後に復活し、初代と同じく「ヴィクラント（INS Vikrant）」の名を冠する二代目空母として実現に至ります。二代目ヴィクラントは2009年2月28日にインド南部のコーチン造船所にて起工され、建造が進められた結果、2022年にインド海軍に就役しています。

初代ヴィクラントは、インド海軍の航空戦力発展の礎を築いた歴史的な艦であり、その存在は長く記憶されることでしょう。

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