ヴィシェグラード (ボスニア・ヘルツェゴビナ)

ヴィシェグラード：歴史と悲劇が交錯するドリナ川畔の町

ヴィシェグラードは、ボスニア・ヘルツェゴビナを構成するスルプスカ共和国に位置する町で、ドリナ川の右岸に広がっています。周囲を森と山々に囲まれたこの地は、ドリナ川の峡谷と豊かな谷間によって形成され、肥沃な土地が広がります。戦略的にも経済的にも重要な場所であり、サラエヴォとイスタンブールを結ぶルート上に位置することから、オスマン帝国時代にはソコルル・メフメト・パシャ橋が架けられました。

歴史

ヴィシェグラードは、ノーベル文学賞を受賞した作家イヴォ・アンドリッチの小説『ドリナの橋』で広く知られています。この小説の舞台にもなったソコルル・メフメト・パシャ橋は、1571年にオスマン帝国の大宰相ソコルル・メフメト・パシャの命によって建設が始まり、1577年に完成しました。ミマール・スィナンによって設計されたこの橋は、2007年にユネスコの世界遺産に登録され、現在では多くの観光客が訪れる名所となっています。

ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争

しかし、ヴィシェグラードは美しい景観と歴史的な価値を持つ一方で、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の悲劇の舞台でもありました。ドリナ川沿いに位置し、セルビアとの国境にも近いヴィシェグラードは、紛争以前の1991年の国勢調査では、ボシュニャク人が多数を占める地域でした。

紛争が激化した1992年、ヴィシェグラードは戦略的な要衝として、ユーゴスラビア人民軍によって攻撃を受けます。特にボシュニャク人の住民が住む地域は激しい攻撃にさらされ、多くのボシュニャク人が犠牲になりました。住民はダムの開放を強要され、その結果洪水によって家や通りが被害を受けました。その後、ユーゴスラビア人民軍はヴィシェグラードを占領し、セルビア人による自治体が設立されました。この時期には、ボシュニャク人を町から追放する目的で民族浄化が行われ、多くのボシュニャク人が殺害されました。虐殺された遺体はドリナ川に捨てられ、町には破壊と略奪が蔓延しました。ウザマニツァ強制収容所では、ボシュニャク人に対する虐待や性的暴行が行われ、その惨状は言葉では言い表せないほどです。ヴィシェグラードでの虐殺では、3000人以上が殺害され、その中には多くの女性や子供が含まれていました。

紛争後、ボスニア・ヘルツェゴビナは二つの構成体に分割され、ヴィシェグラードはスルプスカ共和国に属する自治体となりました。紛争以前は人口の60%を占めていたボシュニャク人は、帰還した少数を除いて減少し、現在ではセルビア人が多数を占める町となっています。

交通

ヴィシェグラードは、欧州自動車道路761号線（M5号線）が通り、ウジツェとサラエヴォを結ぶ重要な交通の要衝です。また、かつてはベオグラードとサラエヴォを結ぶ狭軌鉄道（ボスニア東部鉄道）が敷設されており、その一部が観光用に再建される計画もあります。現在、ヴィシェグラード文化センター前には、かつての蒸気機関車が展示されています。

スポーツ

地元のサッカークラブとして、FKドリナHEヴィシェグラードが活動しています。

ヴィシェグラードは、その美しい自然と歴史的な価値を持つ一方で、紛争の悲劇を経験した場所でもあります。この町の歴史を語る上で、ソコルル・メフメト・パシャ橋は重要な存在であり、その存在は多くの人々に平和と和解の必要性を問いかけています。

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