ヴィジャヤンティマーラー

ヴィジャヤンティマーラー

ヴィジャヤンティマーラー（Vyjayanthimala）は、1933年8月13日に生まれたインドの著名な女優、卓越したダンサー、そして政治家です。彼女は「インド映画初の女性スーパースター」として広く認められており、多言語での成功から「最初の汎インド・スター」とも称されています。女優としてのキャリアを通じて、フィルムフェア賞を5回、ベンガル映画ジャーナリスト協会賞を2回受賞するなど、輝かしい功績を残しました。映画界への長年の貢献に加え、古典舞踊の分野でも大きな足跡を残し、インド政府からパドマ・シュリー勲章、パドマ・ヴィブーシャン勲章、そしてサンギータ・ナータク・アカデミー賞を授与されています。

生い立ちと初期の才能

マドラス（現在のチェンナイ）のトリプリケーンに、タミル人バラモンの家庭に生まれました。母ヴァスンダーラー・デーヴィもまた女優であり、タミル語映画史に名を残す人物でした。幼少期を祖母のもとで過ごしたヴィジャヤンティマーラーは、タミル語を母語とし、早くから芸術への才能を開花させます。マドラスの修道院学校で正規の教育を受ける傍ら、ヴァルヴール・ラーマイヤ・ピッライに師事してバラタナティヤムを、そしてD・K・パッタンマルをはじめとする著名な師範たちからカルナーティック音楽を学びました。5歳という幼い頃には、母に連れられてローマ教皇ピウス11世に謁見し、その前で古典舞踊を披露したという逸話があります。13歳からはアランゲトラム（初舞台）を踏み、マドラス管区各地で精力的に公演を行いました。

映画界での華々しいキャリア

映画界への入り口は、M・V・ラーマン監督が新作『Vaazhkai』の新人を探していた際に、彼女のバラタナティヤム公演を見てスカウトしたことがきっかけでした。当初、祖母は若さや学業・舞踊への影響を懸念して反対しましたが、本人は出演を承諾。1949年のタミル語映画『Vaazhkai』で女優デビューを果たしました。同作の成功を受けて、翌年にはテルグ語リメイク版『Jeevitham』に出演。テルグ語の吹き替えは、父の指導のもと自身で行っています。1951年にはヒンディー語リメイク版『Bahar』でヒロインを演じ、ヒンディー語を習得して撮影に臨みました。同作は興行的に成功を収め、彼女のダンスは北インドの観客に新鮮な印象を与えました。

真のブレイクスルーとなったのは1954年の『Nagin』でした。この作品で初めて単独主演を務め、その美貌とダンスの才能、そして演技力が高く評価され、年間興行収入第1位の大ヒットを記録。ヒンディー語映画界の主要な主演女優としての地位を確固たるものにしました。

その後も彼女の活躍は続きます。1955年のビマル・ロイ監督作『デーヴダース』では、批評家から絶賛されるチャンドラムキ役を演じ、キャリアにおいて最も評価の高い役柄の一つとなりました。同作でフィルムフェア賞助演女優賞に選ばれますが、役柄は主演級であるとして受賞を辞退するという、映画史上初の行動を取りました。これは彼女の役柄への強いこだわりを示すエピソードとして知られています。

1958年の『マドゥマティ』では一人で3役を演じ分け、輪廻転生をテーマにしたゴシック・ノワール作品として大ヒット。彼女の演技と舞踊は改めて高い評価を受け、スターダムを駆け上がる決定的な作品となりました。また、社会問題を扱った『Sadhna』では娼婦役を演じ、演技力が絶賛され、フィルムフェア賞主演女優賞を初受賞しました。同年のタミル語映画『Vanji Kottai Valipan』ではパドミニとのダンスシーンが伝説となり、映画史に残る名場面として語り継がれています。これらの成功により、1958年と1959年には『Box Office India』の「最も興行的な成功を収めた女優」第1位に選ばれています。

1961年にはディリープ・クマール製作・主演の『Gunga Jumna』に出演。ボージュプリー語を完璧に操り、村娘役を演じた演技は批評家から熱狂的に支持され、同作は大ヒットを記録。フィルムフェア賞主演女優賞など数々の賞を受賞しました。また、1964年のラージ・カプール監督作『Sangam』では、初のテクニカラー、海外ロケ、史上最長の上映時間など、様々な面で革新的だった作品で主演。三角関係を描いたこの作品も大成功を収め、彼女は再びフィルムフェア賞主演女優賞を受賞しました。これらの作品群は、彼女が単なるダンサーではなく、高い演技力を持つ女優であることを証明しました。

1966年の『都の花嫁アムラパーリー』は、批評家には絶賛され、アカデミー賞外国語映画賞のインド代表にも選ばれましたが、興行的に振るわず、この結果に失望したヴィジャヤンティマーラーは一度女優業からの引退を決意したとされています。しかし、その後も契約済みの作品に出演し、1967年にはデーヴ・アーナンドと共演した『Jewel Thief』が成功。この作品のダンスナンバー「Hothon Pe Aisi Baat Main」は、インド映画史上屈指のダンスシーンとして記憶されています。また、同年にはベンガル語映画『Hatey Bazarey』でデビューし、批評家から演技を絶賛され、国家映画賞を受賞しました。1968年の『Sunghursh』ではディリープ・クマールと最後の共演を果たし、演技が高く評価され、ベンガル映画ジャーナリスト協会賞を受賞しています。最終的に1970年の『Ganwaar』を最後に、惜しまれつつ女優業から完全に引退しました。

引退後も多くの出演オファーがありましたが、すべて辞退しています。特に、インディラ・ガンディーを連想させる役柄を理由に『Aandhi』への出演を辞退したエピソードや、『Deewaar』での母親役オファーを断ったことなどが知られています。

政界での活動

女優業引退からしばらく経った1984年、ヴィジャヤンティマーラーはインド国民会議の候補としてマドラス南部選挙区から出馬し、初当選を果たしました。選挙戦では対立候補からの挑発的な言動もありましたが、大差をつけて勝利しました。1989年の総選挙でも再選され、連邦下院議員を二期務めます。1993年からは大統領指名枠で連邦上院議員に就任し、1999年までその任期を務めました。政界での活動を通じて、彼女は国民会議の党運営に対する懸念から同党を離党し、後にインド人民党に入党しています。

私生活と信仰

ヴィジャヤンティマーラーの私生活、特に共演者であるディリープ・クマールやラージ・カプールとのロマンスはしばしばタブロイド紙を賑わせました。しかし、本人は自伝の中でこれらの噂を否定しています。ラージ・カプールとの関係については、映画の宣伝チームによる話題作りだったと述べていますが、ラージ・カプールの息子リシ・カプールは自伝でこれとは異なる状況（母親が家を出たこと）を記しており、見解が分かれています。

彼女は1968年に、自身の怪我の治療を担当した医師のチャマンラール・バーリと結婚しました。チャマンラールは当時既婚者でしたが、ヴィジャヤンティマーラーとの関係を選び離婚に至っています。夫妻の間には1972年に息子が生まれましたが、夫は1986年に死去しています。

彼女は敬虔なヴィシュヌ派の信徒であり、厳格なベジタリアンです。幼い頃から讃美歌に親しみ、アーンダールへの崇拝を捧げてきました。公の場で舞踊を披露する前には必ずサラスヴァティーに祈りを捧げることを習慣としています。2024年にはアヨーディヤーのラーム・マンディールで行われたパフォーマンスシリーズに参加し、バラタナティヤムを奉納しました。

評価と遺産

ヴィジャヤンティマーラーは、その美しさ、卓越したダンススキル、そして確かな演技力によって、インド映画史において最も偉大な女優の一人として広く認められています。1950年代から1960年代にかけてはインドで最も出演料の高い女優の一人であり、長年にわたり興行面でも圧倒的な成功を収め続けました。彼女が確立した女優としての地位と、多方面での活躍は、後進の多くの女優たちに影響を与えています。彼女は女優、ダンサー、政治家として、インド社会に多大な貢献を果たした人物と言えるでしょう。

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