ヴィットリオ・ヴェネトの戦い

ヴィットリオ・ヴェネトの戦い：第一次世界大戦におけるイタリア戦線の転換点

第一次世界大戦末期の1918年10月24日から11月3日にかけて、イタリア王国軍とオーストリア＝ハンガリー帝国軍の間で繰り広げられたヴィットリオ・ヴェネトの戦いは、イタリア戦線における決定的な転換点となりました。厭戦気分が蔓延していたオーストリア軍は、この戦いで壊滅的な打撃を受け、50万人以上の兵士を失い、戦力の大半を失いました。この勝利は、イタリアにとって長年の宿敵であるオーストリア＝ハンガリー帝国の崩壊を決定づけるとともに、領土回復運動（イリデンティズム）の最終的な結実とみなされることもあります。

背景：カポレットの敗北とピアーヴェの勝利

1917年、カポレットの戦いにおいて、ドイツ軍の浸透戦術によってイタリア陸軍は壊滅的な打撃を受けました。30万人以上の兵士を失い、イゾンツォ川の戦線から撤退を余儀なくされたイタリア軍は、総司令官ルイージ・カドルナを解任し、アルマンド・ディアズ将軍を新たな総司令官に任命しました。ディアズ将軍は、連合軍の支援を受けながら、軍の再建に尽力し、独墺軍をピアーヴェ川で食い止めました。1918年6月、ピアーヴェ川の戦いでイタリア軍はオーストリア軍を撃破し、17万人の兵士を失わせることに成功しました。この勝利後、連合軍はイタリアに反撃を要請しましたが、慎重なディアズ将軍は、オーストリア軍が隙を見せる時を待ちました。

作戦準備：最終攻勢への動き

戦局は連合国側に傾き、ロシアとの講和で一時的に危機を脱したドイツも敗戦が近づいていました。オーストリアは単独での戦況打開を目指していましたが、ピアーヴェ川の敗北以降はそれも困難になっていました。戦史家ジョン・フレデリック・チャールズ・フラーは、「ピアーヴェの敗北は、オーストリア＝ハンガリーの末路の予兆であった」と評しました。戦線では士気が低下し、ハンガリー人とオーストリア人の対立も表面化していました。

ディアズ将軍は、オーストリア軍への最終攻勢を計画し、モンテ・グラッパからピアーヴェ川にかけて展開する6個軍を投入することを決定しました。作戦目標はピアーヴェ川対岸のヴィットリオ・ヴェネトに定められ、まずは渡河のための橋頭堡を築くことが目標とされました。

戦闘：渡河作戦と戦線崩壊

10月23日、イタリア軍はピアーヴェ川の渡河を開始しました。最初の攻撃は、オーストリア軍の予備戦力を誘い出すためのものでした。ボロイェヴィッチ将軍は、結束を失いかけていたオーストリア軍を励ましながら防衛線の維持に努めましたが、増水した川に助けられたこともあり、オーストリア軍は初日と翌日の攻撃を持ちこたえました。しかし、10月25日、イタリア第10軍が渡河の重要拠点であるパパドポリ島を奪取し、対岸への上陸地点を確保しました。

同時期、フランス軍を含む第12軍も渡河に成功し、第8軍が戦線を拡大させました。第10軍は第12軍と第8軍の援護を受けつつ、オーストリア第5軍に猛攻を加え、これを敗走させました。10月27日には第10軍が防衛線を突破し、他のイタリア軍も次々と前線を突破しました。ボロイェヴィッチ将軍は反撃を命じましたが、戦意を失ったオーストリア兵は命令を拒否しました。10月28日、第10軍はピアーヴェ川の対岸に確固たる橋頭堡を築き上げました。ボロイェヴィッチ将軍は、もはやピアーヴェ川の防衛は不可能と判断し、全軍にタリアメント川への退却を命令しました。

10月28日、イタリア軍の渡河とオーストリア軍の総退却と同じ日に、ハプスブルク体制に反旗を翻していたチェコ人勢力が臨時政府樹立を宣言しました。翌日には南スラブ人勢力も続き、帝国は内乱状態に陥りました。10月30日、イタリア軍は戦線を拡大させ、初期目標であったヴィットリオ・ヴェネトを含む、幅54kmに及ぶ戦線を対岸に構築しました。これにより、ピアーヴェ川のオーストリア軍の防衛線は分断され、民族紛争は一層激化しました。

10月31日、ハンガリー人が独立運動を開始し、オーストリア＝ハンガリー帝国の解散を求めました。タリアメント川に敗走していたオーストリア軍では、ハンガリー系兵士とオーストリア＝ドイツ系兵士の対立が先鋭化し、脱走も相次ぎました。ディアズ将軍は、オーストリア軍の士気崩壊を見逃さず、全軍に追撃命令を下しました。11月1日までに、イタリア軍は5万人のオーストリア兵を降伏させ、10万人の捕虜を拘束しました。11月1日からはイタリア海軍も攻勢に加わり、トリエステを占領しました。

11月3日、イタリア陸軍はタリアメント川に到達し、次の目標であるイソンツォ川へ向かおうとしていました。

オーストリア軍の降伏

11月3日、戦線崩壊に陥ったオーストリア軍は、イタリア軍に休戦を求めました。両者は同日中に休戦条約に調印し、オーストリア＝ハンガリー帝国の敗戦が事実上決定しました。ヴィラ・ジュスティ休戦協定は、署名日の11月3日午後3時から24時間後に施行されることになっていましたが、オーストリア軍は11月3日中に停戦命令を出しました。イタリア軍内部の強硬派は、休戦協定の破棄も検討すべきだと主張しましたが、イタリア陸軍は11月4日午後3時まで進軍を継続し、タリアメント川を渡河しました。11月4日、イソンツォ川に到達し、南チロルも占領下に置きました。

結果：オーストリア＝ハンガリー帝国の崩壊と戦後の影響

ヴィットリオ・ヴェネトの戦いは、単なる戦術的勝利に留まらず、オーストリア＝ハンガリー帝国を歴史から消滅させるという結果をもたらしました。オーストリアの降伏は、ドイツの厭戦気分を激化させ、ドイツも降伏を選択しました。この戦いは、民族自決運動を加速させ、ドイツが戦争継続を断念する一因にもなりました。長年の宿敵であるオーストリア＝ハンガリー帝国が崩壊したことは、イタリアにとって領土割譲以上の戦略的勝利を意味しました。ピアーヴェとヴィットリオという二つの勝利を収めたアルマンド・ディアス将軍は、祖国だけでなく同盟国からも広く称賛され、公爵の地位を与えられました。

もう一度検索