ヴィニフレート・ワーグナー

ヴィニフレート・ワーグナー（Winifred Wagner, 1897年6月23日 - 1980年3月5日）は、バイロイト音楽祭の主宰者として知られる人物です。彼女は、作曲家リヒャルト・ワーグナーの息子であるジークフリート・ワーグナーの未亡人であり、音楽祭の運営において重要な役割を果たしました。

生い立ちと結婚

ヴィニフレートは、本名をウィニフレッド・マージョリー・ウィリアムズといい、イギリス出身です。幼くして両親を亡くし、親族の間を転々とした後、母方の遠縁にあたるドイツ人ピアニストのカール・クリントヴォルトに引き取られました。クリントヴォルトはリヒャルト・ワーグナーの親友であったため、ヴィニフレートは幼い頃からワーグナーの音楽に親しみ、熱心なワグネリアンとして育ちました。

バイロイト音楽祭は、ワーグナー家の家業として代々受け継がれることが定められていました。しかし、ジークフリート・ワーグナーは同性愛の傾向があり、結婚に興味を示しませんでした。そのため、1914年のバイロイト音楽祭で、17歳のヴィニフレートは45歳のジークフリートと引き合わされました。翌年、二人は結婚し、この結婚はジークフリートのスキャンダルに終止符を打つことが期待されました。結婚後、二人は4人の子供をもうけました。

ヴィーラント・ワーグナー（1917年-1966年）
フリーデリント・ワーグナー（1918年-1991年）
ヴォルフガング・ワーグナー（1919年-2010年）
ヴェレーナ・ワーグナー・ラフェレンツ（1920年 - 2019年）

バイロイト音楽祭の運営とヒトラーとの出会い

第一次世界大戦後の経済難の中、ヴィニフレートは夫の新演出実現のために資金集めに奔走したり、著名な指揮者であるトスカニーニに音楽祭への出演を説得するなど、音楽祭に欠かせない存在となりました。1930年に夫ジークフリートが急逝すると、彼女は音楽祭の運営を一人で担うことになりました。当初は劇場の支配人であるハインツ・ティーティエンを協力者とし、ヴィルヘルム・フルトヴェングラーを招くことにも成功しましたが、音楽祭の求心力は低下していました。

この時期から、ヴィニフレートはアドルフ・ヒトラーに急速に接近します。バイロイト音楽祭の運営方針を巡ってゲッベルスらから反感を買う中、ヒトラーはヴィニフレートの方針を支持し、援助を惜しみませんでした。彼女自身もナチズムの思想に共感しており、1923年に初めてヒトラーと出会って以来、彼がミュンヘン一揆に失敗して投獄された際には、食べ物や原稿用紙を差し入れ、彼の著書『我が闘争』の執筆を助けるほどでした。二人は、ドイツ人のナショナリズムや、民族的な願望をワーグナーの音楽理念として解釈し、共有しました。

ナチス・ドイツとの関わり

こうして、バイロイト音楽祭はヒトラーの好みに沿い、ナチス・ドイツの国家的行事として最高峰の地位を占めることとなりました。ヴィニフレートとヒトラーは親密な関係を築き、結婚の噂まで流れたほどでした。バイロイトのワーグナー家の邸宅であるヴァーンフリート荘は、ヒトラーの休息所として使われました。ヒトラーは、バイロイト音楽祭に継続的な協賛を行い、ヴィニフレートの子供たちにも格別の配慮を示しました。

戦後と晩年

第三帝国崩壊後、ヴィニフレートはナチズムへの加担責任を問われましたが、実刑は免れたものの、公職追放を余儀なくされました。バイロイト音楽祭の経営は、息子のヴィーラントとヴォルフガングが引き継ぎました。1975年のインタビューでは、過去の行いを全く悔いる様子を見せず、ヒトラーへの敬意を表明し続けました。彼女は「彼と出逢ったことは、避けようのない体験だったのでしょう」と語っています。

ヴィニフレート・ワーグナーの生涯は、芸術と政治が深く結びついた歴史の一側面を示しています。彼女の行動は、後世に多くの議論を呼び、その評価は今もなお分かれています。

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