ヴィラ・メディチの庭園、ローマ (ベラスケスの絵画)

ヴィラ・メディチの庭園、ローマ

ディエゴ・ベラスケスによる『ヴィラ・メディチの庭園、ローマ』は、バロック期のスペインを代表する巨匠が描いた、対をなす2点の風景画です。それぞれ『午後、グロッタのロッジア』と『正午、クレオパトラのロッジア』と題され、キャンバスに油彩で描かれています。ベラスケスの作品の中でも、純粋な風景画として知られるものは非常に少なく、これら2点はその特異な存在感を際立たせています。

制作時期

制作年については、ベラスケスの第1回目（1629-1631年）と第2回目（1649-1651年）のイタリア滞在期、または帰国後のスペインでの制作など、諸説が存在していました。しかし、近年の科学的な調査によって、第1回目のイタリア滞在期に制作されたという結論に至っています。現在、これらの作品はマドリードのプラド美術館に所蔵されています。

背景

1634年の記録によると、ベラスケスはスペイン国王フェリペ4世のために、4点の小風景画を売却したとされています。この記録から、現存する2点と失われた2点の合計4点が、1630年前後に制作されたと推測できます。ベラスケスは1630年の夏、オリバーレス伯公爵の計らいで、ローマのピンチョの丘に位置するヴィラ・メディチで2ヶ月あまりを過ごしました。この場所は、ベラスケスにとって芸術的なインスピレーションの源泉となったと考えられます。

ヴィラ・メディチは、古代ローマの遺物であるレリーフで飾られ、メディチ家から運ばれたブロンズ像が置かれるなど、当時の芸術家たちにとって特別な場所でした。広大な庭園には、オベリスクや巨大な甕が配置され、ロッジアは古代彫刻の保管庫としても使われていました。また、ピンチョの丘の麓には、クロード・ロランやニコラ・プッサンといった風景画家も暮らしており、特にプッサンとの交流は、ベラスケスの芸術に大きな影響を与えたと考えられています。

作品の特徴

『ヴィラ・メディチの庭園、ローマ』の2作品は、即興的な筆致で描かれています。風景描写は単なる背景ではなく、それ自体が作品の主題となっています。小品ながらも、スケッチ風の軽快で自由なタッチは、後の印象派の画家たちを彷彿とさせます。光の捉え方や時の流れを描写する技術は特筆に値します。

画面には人物も小さく描かれていますが、これらは16世紀半ばのローマ派の絵画に見られる古典的な雰囲気を醸し出しています。『午後、グロッタのロッジア』には、当時改修中で閉鎖されていた古代彫刻の保管場所が描かれています。一方、『正午、クレオパトラのロッジア』は開放的な空間構造を持ち、彫刻『眠るアリアドネ』が置かれている様子が描かれています。

これらの作品は、それぞれ午後と正午の情景を描いており、時間の経過を表現している点で、クロード・モネが250年後に描いたルーアン大聖堂の連作を予告しているとも言えます。もし、この2点がフェリペ4世に売却された4点に含まれていたとするならば、4点全体で1日の異なる時間帯を描いていた可能性も指摘されています。

芸術的意義

『ヴィラ・メディチの庭園、ローマ』は、ベラスケスの風景画家としての才能を示す貴重な作品群です。即興的な筆致と光の描写は、後の印象派に大きな影響を与えました。また、時間の経過を描写するという点で、連作の先駆けとも言える作品です。これらの作品は、ベラスケスの多様な才能を物語る上で、重要な位置を占めています。

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