ヴィルヘルム・グストロフ (客船)

ヴィルヘルム・グストロフの歴史

ヴィルヘルム・グストロフ（Wilhelm Gustloff）は、ナチス・ドイツによって建造された豪華な客船である。もともとは労働者や一般市民の為の安価な旅行を提供するためのものであったが、第二次世界大戦の最中に徴用され、悲劇的な運命を辿った。1945年1月30日、同船はドイツから逃げる避難民や傷病兵を載せたが、後にソ連海軍の潜水艦の雷撃を受け、推定9,000人以上の命が奪われてしまった。

建造の背景

この船はドイツ労働戦線（DAF）の下部組織である歓喜力行団（KDF）が運営し、ハンブルクのブローム・ウント・フォス造船会社で建造された。建造には2,500万ライヒスマルクがかけられ、当時としては相当の規模のものだった。初めから当船は15隻の歓喜力行団が所有する客船の一つとして、地中海やノルウェーのフィヨルドを巡るクルーズに利用されていた。

船内には224室の2人用客室や233室の4人用客室があり、階級差を否定する設計がなされていた。また、アドルフ・ヒトラー専用のスイートルームも一つ存在したが、実際にヒトラーがこの船を利用することはなかった。この船の名は、ナチス党の指導者ヴィルヘルム・グストロフに因んで名付けられた。

戦争の影響と沈没

1945年、東プロイセンでは赤軍による攻勢が始まり、大勢の避難民や傷病兵が発生した。1月21日には海上避難輸送計画「ハンニバル作戦」が発動され、数多くの船舶が西ドイツへの移動に駆り出された。ヴィルヘルム・グストロフもこの計画の一環として1月30日に出航した。同船には公式記録で約6,050名が乗船していたが、蓋を開けてみれば実際には多くの難民が追加で乗り込んでおり、推定乗客数は10,582名以上に達した。

船の設計は2,000名弱を想定していたが、多くの乗客を収容できる余地があったものの、装備されていた救命用具は半分にも満たない数だった。出港後、船は2,000名以上の多くの難民で溢れかえり、混乱が生じる中で航海を続けることとなった。

しかし、航海は決して安穏なものではなかった。潜水艦の攻撃を避けるためには航路選びが重要だったが、乗組員間での意見が分かれた。視界不良の悪天候の中、結局船は照明を点灯したまま航行することになり、それが悲劇を引き起こす要因ともなった。

1945年1月30日、ポーランド沖でソ連海軍潜水艦S-13に発見され、攻撃を受ける。発射された魚雷の一部が船体に命中し、船は急速に沈み始めた。混乱の中で乗客たちがパニックに陥り、多くが救命器具を求めて押し合い、恐慌状態となった。

沈没の結果

沈没後、多くの乗客が凍える海に投げ出され、厳冬のバルト海の冷たい水温が生存者を次々と奪っていった。近くにいた艦艇が救助活動を行い、一応の生存者が救い上げられることがあったが、最終的に多くの命が失われたと見積もられている。生存者は1,216名程度とされ、その悲劇的な結果は今も記憶に残るものとなっている。

論争

この事件は今なお議論を呼ぶものであり、戦争犯罪に該当するか否かが問われ続けている。軍船としての性質も伺わせるヴィルヘルム・グストロフであったため、正当な軍事目標との見解が示されたこともある。サバイバーたちの証言や歴史的な評価は、今もその真実を変えずに残っている。

現在、ヴィルヘルム・グストロフはポンメルン地方の海底に横たわり、永遠に忘れられない悲劇の象徴としてその存在を知らしめている。

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