ベイジル・ラスボーン

ベイジル・ラスボーン：ハリウッドを彩った名優とその影

1892年、南アフリカのヨハネスブルグに生まれたフィリップ・セイント・ジョン・ベイジル・ラスボーンは、イギリスでの教育を経て俳優の道を歩み始めました。1910年代にはイギリスの舞台で活躍した後、第一次世界大戦を経てアメリカへ渡り、ブロードウェイでキャリアを積み重ねます。その後ハリウッドへと進出し、数々の映画作品に出演しました。

1930年代後半から1940年代にかけては、ハリウッド黄金期を代表するスターの一人として活躍しました。1936年の『ロミオとジュリエット』、1938年の『放浪の王者』では、アカデミー賞助演男優賞にノミネートされるなど、高い演技力を認められました。また、ホラー映画にも積極的に出演し、『フランケンシュタインの復活』（1939年）では主演を務め、ボリス・カーロフやベラ・ルゴシといった怪奇映画スターたちと共演しました。

しかし、ラスボーンを不朽のスターダムへと押し上げたのは、何と言ってもシャーロック・ホームズ役でした。1939年、映画『バスカヴィル家の犬』でホームズを演じ、ワトソン役のナイジェル・ブルースと名コンビを結成。その後、14本のホームズ映画で共演し、独特の雰囲気と卓越した演技で世界中の観客を魅了しました。

「Elementary, my dear Watson.」というホームズの決め台詞は、実はウィリアム・ジレット版舞台から引用されたものでしたが、ラスボーンの演技によって広く知られるようになり、ホームズ像を象徴する言葉となりました。しかし、ラスボーン自身は、ホームズ役の人気に振り回されることに不満を感じていた一面もありました。ラスボーンという名前よりも「シャーロック・ホームズ」として認識されることに苦悩し、ワーナー・ブラザース社との契約満了を機に、ホームズ役を降板しました。この決断は、多くのファンとナイジェル・ブルースを落胆させました。

その後も、シェイクスピア作品を中心にハリウッドで活躍を続け、俳優として確固たる地位を築きました。晩年になって、ラスボーンはホームズ役を自身の重要なキャリアの一部として受け入れるようになり、再びラジオドラマなどでホームズを演じています。最期の舞台となったのは、夫人との結婚記念日を祝うために制作されたオリジナル作品でした。この舞台でもホームズ役を演じる予定でしたが、ワトソン役のナイジェル・ブルースが病気で降板、名コンビの再共演は叶いませんでした。

ベイジル・ラスボーンは、ハリウッド黄金期を代表する名優の一人として、映画史に名を刻みました。怪奇映画からシェイクスピア作品、そしてホームズ役と、幅広い役柄をこなす演技力と存在感は、多くの観客の記憶に鮮やかに残されています。しかし、彼のシャーロック・ホームズ像は、第二次世界大戦の影響などもあり、日本ではあまり知られていませんでした。近年になって、一部の作品がDVDとしてリリースされたことで、ようやく日本でもその名を知られるようになってきています。彼の偉大な功績は、時代を超えて再評価されるべきでしょう。

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