ヴィンチェンツォ・ラグーザ

ヴィンチェンツォ・ラグーザ（Vincenzo Ragusa, 1841年7月8日 - 1927年3月13日）は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍したイタリアの彫刻家です。シチリア島のパレルモ郊外にあるパルタンナ・モンデルロで生を受け、幼少期から絵画に強い関心を示していました。1865年、20代半ばで本格的に彫刻の道へと進みます。1872年には、ミラノで開催された全イタリア美術展に石膏作品「装飾暖炉」を出品し、その卓越した技術と芸術性が高く評価され、最高賞である「ウンベルト殿下賞」を受賞しました。

ラグーザの転機となったのは、1876年（明治9年）に明治政府の招聘で来日したことです。彼は、新設された工部美術学校で彫刻指導を担当し、日本の近代美術教育の発展に大きく貢献しました。1882年（明治15年）までの在任期間中、大熊氏廣（1856年-1934年）や藤田文蔵（1861年-1934年）といった、後の日本美術界を担う人材を育成しました。この間、彼は日本を深く理解し、日本の文化や人々に触発された数多くの作品を制作しています。

ラグーザの日本での活動は、彼の個人的な生活にも大きな影響を与えました。彼は、江戸芝新堀生まれの画家、清原多代（ラグーザ玉、エレオノーラ・ラグーザ）と出会い、愛を育みました。彼女は、ラグーザの作品のモデルを務めることもあり、彼の芸術活動を支える重要な存在でした。ラグーザは日本を離れる際、多代を伴いシチリア島パレルモへ帰国し、後に結婚しました。故郷では、工芸学校を創立し、校長として教育活動に尽力しました。多代は、夫の死後、1933年に日本へ帰国し、その生涯を終えました。

ラグーザの代表的な作品には、パレルモ市にある『ガリバルディ騎馬銅像』をはじめ、日本滞在中に制作した数々の胸像や人物像があります。特に、『清原玉女像』、『日本婦人』、『黒田長溥像』、『山尾庸三像』、『伊藤博文像』などは、彼の高い技術力と、対象への深い洞察力が示されています。これらの作品は、日本と西洋の文化が融合した、独特の芸術的価値を持つものとして評価されています。

1941年には、イタリア文化会館の竣工を記念して、ラグーザの甥であり画家であるチロ・ラグーザが来日し、ヴィンチェンツォ・ラグーザの功績を称えました。

ヴィンチェンツォ・ラグーザは、彫刻家としてだけでなく、教育者、国際的な文化交流の架け橋としての役割も果たしました。彼の作品と生涯は、日伊両国の文化交流史において重要な位置を占めています。

彼の作品は、以下のものが知られています。

『ガリバルディ騎馬銅像』（パレルモ市）
『清原玉女像』 1878年頃 高さ63.0
『日本婦人』 1880年頃 高さ62.0
『黒田長溥像』 1881 高さ65.0
『日本婦人像』 1876-82 高さ65.0
『日本の俳優』 1876-82 高さ78.0
『車夫』 1876-82 高さ70.0
『山尾庸三像』 1876-82 高さ71.0
『西洋少女像』 1876-82 高さ58.0
『伊藤博文像』 1876-82

関連情報として、以下のリンクも参照ください。
ラグーザ作『山尾庸三像』の石膏原型に触れた時1-九博「温故知新」矢野真
ラグーザ作『山尾庸三像』の石膏原型に触れた時2-九博「温故知新」矢野真
* ラグーザお玉自叙伝

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