工部美術学校

工部美術学校：日本の近代美術教育の黎明期

工部美術学校は、日本の近代[美術教育]]において極めて重要な役割を果たした、最初の美術教育機関です。1876年]、[[工部大学校の附属機関として設立されました。設置された学科は画学科と彫刻科の2科のみ。特徴として、西洋美術教育に特化しており、日本の伝統的な日本画や木彫はカリキュラムに含まれていませんでした。これは、当時の「美術」という概念が、近世以前の日本文化を包含していなかったこと、そして工部省が近代化政策の一環として美術教育を推進した背景を反映しています。建築を扱う造家学科は工部大学校に設置されていましたが、工部美術学校には含まれておらず、輸出工芸も美術教育の枠外にありました。

イタリア人教師陣と教育内容

工部美術学校設立にあたり、西洋美術教育の指導にあたったのは全員イタリア人教師でした。美術先進国であるフランスではなく、ルネサンス美術の中心地であるイタリアから招聘された点は興味深い事実です。画学科はアントニオ・フォンタネージ、彫刻科はヴィンチェンツォ・ラグーザが担当し、ヴィンチェンツォ・カペレッティが装飾図案や用器画を担当しました。カペレッティは工部大学校の建築科にも関わっていた可能性も指摘されています。彼らは1876年8月に来日し、契約を締結しました。入学者は60名程度だったと推定されています。

廃校への道

しかし、工部美術学校は設立から長く続くことはありませんでした。西南戦争後の財政難により、十分な教育環境が確保できなくなったため、フォンタネージは1878年に帰国。後任としてフェレッティが招聘されましたが、フォンタネージを慕っていた学生の多くが退学し、「十一会」という団体を結成しました。その後、サン・ジョヴァンニが画学科の教師となりました。

一方、この時代にはアーネスト・フェノロサの提言なども影響して日本美術の再評価が進み、国粋主義の高まりもありました。こうした状況の中、1882年には彫刻科が廃止され、ラグーザが解任。翌1883年には画学科も廃止され、工部美術学校はわずか6年で廃校となりました。卒業・修了者は35名に留まりました。

東京美術学校設立と明治美術会

工部美術学校廃校から6年後、1889年には東京美術学校が設立されました。しかし、当初は日本画、木彫、工芸の三科のみで、西洋美術は含まれていませんでした。このことに反発した工部美術学校出身の美術家たちが中心となり、同年、明治美術会が設立されました。これは、工部美術学校が日本の近代美術教育に与えた影響の大きさを示すエピソードと言えるでしょう。

主な出身者

工部美術学校には、後に日本の美術界で活躍する多くの才能が学んでいました。画学科出身者には、小山正太郎、山本芳翠、五姓田義松、浅井忠、松岡寿、中丸精十郎などがおり、彫刻科出身者には大熊氏廣などがいます。彼らは、それぞれ独自の道を歩み、日本の近代美術の発展に貢献しました。彼らの多くは、工部美術学校の閉鎖後も、美術界に大きな影響を与え続けました。

まとめ

工部美術学校は、短い期間ながらも日本の近代美術教育の礎を築いた重要な存在でした。西洋美術教育に特化した教育内容、イタリア人教師陣の招聘、そして廃校に至るまでの経緯は、当時の日本の社会情勢や美術に対する考え方の変化を反映しています。その歴史を学ぶことは、日本の近代美術史を理解する上で不可欠です。

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