黒田長溥

黒田長溥：筑前福岡藩を近代化に導いた蘭癖大名

黒田長溥（くろだ ながひろ）は、江戸時代後期に筑前福岡藩の第11代藩主を務めた大名です。幼少期は薩摩藩で過ごし、島津重豪の息子として生まれました。後に福岡藩主・黒田斉清の婿養子となり、藩主の座を継ぎました。

蘭癖大名としての功績

長溥は、養父である斉清と同様に蘭学を好み、西洋の文化や技術に強い関心を持ちました。その興味は、単なる趣味にとどまらず、藩政に積極的に取り入れられました。彼は、博多岡崎新地に精錬所や反射炉を建設し、有望な藩士を長崎の出島に派遣して西洋技術を学ばせました。その結果、福岡藩から日本初の時計屋や写真館を開業する者も現れました。

長溥の西洋趣味は、蒸気機関の製作にも及びました。オランダ人の指導のもと、蒸気機関の開発に取り組み、医術学校の創設や種痘の実施、領内での金鉱・炭鉱開発も推進しました。しかし、鉱山開発は困難を極め、石炭産業の育成は道半ばで終わりました。

幕末の動乱と長溥

嘉永年間には、島津家のお家騒動である「お由羅騒動」の解決に尽力し、島津斉彬の藩主相続を支援しました。ペリー来航後には、幕府に対して開国を求める建白書を提出し、海軍創設やジョン万次郎の登用を訴えました。この建白書は幕府に黙殺されましたが、長溥の先見の明を示すものとして評価されています。

安政元年（1853年）には、再度幕府に請願書を提出し、蒸気船を主力とする海軍による沿岸防衛の強化、貿易の開放と欧米からの技術導入、アメリカ、ロシア、またはスペインとの同盟を提唱しました。

安政6年（1859年）には、再来日したシーボルトから解剖学の講義を受け、自ら死体を手に取るなど、西洋の医学にも関心を示しました。

元治元年（1864年）には参議に任じられ、「筑前宰相」と呼ばれました。

乙丑の変と隠居

長溥は、藩内で過激な尊王攘夷派を弾圧する一方で、薩摩藩と長州藩、そして幕府の間を取り持つなど、幕末の政治情勢において重要な役割を果たしました。西郷隆盛もその一人であり、長溥に助けられたとされています。

明治維新後、長溥は名を長溥（ながひろ）と改めました。明治2年（1869年）には隠居し、家督を養子の長知に譲りました。長知が岩倉使節団に随行して海外留学する際には、金子堅太郎と團琢磨を随行させました。團琢磨は、かつて長溥が行った種痘の実験で息子を亡くした家臣の息子であり、長溥の償いの意味があったとも言われています。

明治18年（1885年）、金子堅太郎の献策により、旧福岡藩士との協議の末、黒田家の私学・藤雲館の校舎・什器一切を寄付し、旧福岡藩校修猷館を福岡県立修猷館（現福岡県立修猷館高等学校）として再興しました。

明治20年（1887年）、東京赤坂の黒田本邸にて77歳で死去しました。墓所は青山霊園と高野山奥の院にあります。

まとめ

黒田長溥は、蘭学への深い知識と関心を背景に、福岡藩の近代化を推進した名君でした。幕末の動乱期には、幕府と薩長との調停に奔走するなど、政治家としても手腕を発揮しました。彼の功績は、福岡県の発展に大きく貢献し、今もなお語り継がれています。

参考資料

柳猛直 『黒田長溥』 海鳥社、1989年。
岩井護「血は争えぬ蘭癖大名」『大江戸おもしろかなし大名たち』新人物往来社、1991年
* 宮崎克則・原三枝子「黒田斉清・黒田長溥―好学・開明的なふたりの藩主」、『九州の蘭学―越境と交流』、193-99頁。 ヴォルフガング・ミヒェル・鳥井裕美子・川嶌眞人 共編（京都：思文閣出版、2009年）

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