ヴィーナスとオルガン奏者とキューピッド

ヴィーナスとオルガン奏者とキューピッド

『ヴィーナスとオルガン奏者とキューピッド』（または『アモールと音楽にくつろぐヴィーナス』）は、イタリア盛期ルネサンスの巨匠、ティツィアーノ・ヴェチェッリオが1550年頃に制作した油彩画です。この作品は、画家の「ヴィーナスと音楽奏者」をテーマにした一連の作品の一つであり、現在マドリードのプラド美術館に所蔵されています。

作品の背景

ティツィアーノは、愛の女神ヴィーナスを音楽家と共に描いた作品を複数制作しています。その中には、リュート奏者を描いたものもあれば、オルガン奏者を描いたものもあります。本作は、プラド美術館の『ヴィーナスとオルガン奏者と犬』や、ベルリン絵画館の『ヴィーナスとオルガン奏者』と同様に、ヴィーナスとオルガン奏者を組み合わせた構成が特徴です。

作品の特徴

「ヴィーナスと音楽奏者」の絵画では、庭園付きの邸宅を背景に、大窓の前に横たわるヴィーナスが描かれるのが一般的です。彼女の足元には、オルガン奏者またはリュート奏者が楽器を奏でています。音楽家はヴィーナスの裸体を見つめ、女神は視線を避けるように、子犬やキューピッドの方向へ顔を向けています。

本作の初期の記録は、1626年にイタリアの学者カッシアーノ・ダル・ポッツォがマドリードの旧王宮で見たという記述です。それ以前の歴史については、推測の域を出ません。

本作は、プラド美術館所蔵の『ヴィーナスとオルガン奏者と犬』を基に描かれたと考えられています。X線調査によって、『ヴィーナスとオルガン奏者と犬』の制作過程で、画家が試行錯誤を重ねていたことが判明しました。初期のバージョンでは、横たわる女性像はオルガン奏者と視線を合わせていましたが、その視線が挑発的すぎるという理由から、頭部が子犬の方向へと変更されました。この変更が、本作を含む一連の「ヴィーナスと音楽奏者」の絵画の原型となりました。

『ヴィーナスとオルガン奏者と犬』と本作は、全体的な構図は同一ですが、いくつかの変更点が見られます。最も重要な変更点は、子犬の代わりにキューピッドが加えられた点です。この変更に伴い、ヴィーナスの上半身と頭部、そして左手の位置が変更されています。キューピッドの存在は、裸婦がヴィーナスであることを明確にし、ミケランジェロの作品を元にしたカルトンとの関連性を強調する役割も果たしています。その他、音楽家の年齢や風景、ヴィーナスの下に敷かれた布やカーテンの配置など、細かな変更点も存在します。

解釈

『ヴィーナスとオルガン奏者』シリーズの解釈は様々です。官能的な作品としてのみ捉える美術史家もいれば、高度な象徴的意味を見出そうとする見方もあります。

象徴的な解釈を支持する立場では、人文学者マルコ・エクィコラが『愛の本質の書』で述べたように、視覚と聴覚は、美と調和を理解するための道具であるという新プラトン主義的な感覚の寓意として捉えられます。しかし、これらの作品が異なる時期と状況下で制作されたことを考慮すると、全てが同一の思想を反映しているとは限りません。

参考文献

プラド美術館展　スペインの誇り　巨匠たちの殿堂、東京都美術館、プラド美術館、読売新聞社、日本テレビ放送網、美術館連絡協議会、2006年刊行
プラド美術館展　ベラスケスと絵画の栄光、国立西洋美術館、プラド美術館、読売新聞社、日本テレビ放送網、BS日本テレ、2018年刊行 ISBN 978-4-907442-21-7

外部リンク

* プラド美術館公式サイト、ティツィアーノ『ヴィーナスとオルガン奏者とキューピッド』 (英語)

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