ヴィーナスとキューピッド (ポントルモ)

ポントルモ作『ヴィーナスとキューピッド』

『ヴィーナスとキューピッド』（伊: Venere e Amore）は、イタリアのマニエリスム期の画家、ポントルモによって描かれた油彩の板絵です。この作品は、ミケランジェロが描いたと伝えられる失われた素描、またはその下絵を基に制作されました。現在、フィレンツェのアカデミア美術館に所蔵されており、その美術史的な重要性から多くの研究者の関心を集めています。

作品の背景

この絵画は、ミケランジェロの友人であるバルトロメオ・ベッティーニのために制作されたとされています。ミケランジェロの素描は1532年から1533年の間に描かれ、ポントルモによる絵画は1533年に完成したと考えられています。ミケランジェロ自身は、絵画完成の翌年にローマへと旅立ったとされています。初期の記録によれば、ミケランジェロの素描は、1537年から1542年の間にアノニモ・マッリアベキアーノによって記録されています。

複製と関連作品

『ヴィーナスとキューピッド』には、複数の複製や関連作品が存在します。

大英博物館の準備習作: ポントルモがこの作品を描く際に用いた準備習作が、大英博物館に所蔵されています。これは、作品の制作過程を研究する上で貴重な資料となっています。
コロンナ宮殿の複製: ミケーレ・ディ・リドルフォ・デル・ギルランダイオによる複製が、ローマのコロンナ宮殿に所蔵されています。この複製は、オリジナルの作品の特徴を忠実に再現しており、当時の画家たちがどのように作品を模倣し、学んでいたかを示す好例です。
その他の複製: ケンジントン宮殿のロイヤル・コレクション、ヒルデスハイムにも複製があり、ジュネーブにはミケーレ・トシーニに帰属される小品バージョンが存在します。また、ナポリのカポディモンテ美術館には2点の複製があります。1点はヘンドリック・ファン・デルブルックに帰属され、もう1点は匿名の画家によるものです。ジョルジョ・ヴァザーリは、オッタヴィアーノ・デ・メディチのために3点の複製を制作しました。
ナポリの素描: かつてミケランジェロの素描と考えられていたものがナポリで発見されましたが、現在は複製であるとされています。

これらの複製は、作品の人気と影響力を物語るとともに、ポントルモのオリジナル作品の研究においても重要な役割を果たしています。

作品の変遷と修復

作品は、アレッサンドロ・デ・メディチが所有しており、初期の段階でヴィーナスの裸体を覆い隠すための検閲が行われました。これは当時の社会的な倫理観を反映したものです。

作品は、1553年と1560年にグアルダローバ・メディチェーアの目録に記録されており、ベネデット・ヴァルキによって「『クニドスのアフロディーテ』のように」男性が恋に落ちてしまったと賞賛されました。1850年に再発見された後、1852年には修復者のウリッセ・フォルニによって大規模な修復が行われました。この修復では、ヴィーナスの性器を覆っていた布が取り除かれ、作品はほぼ本来の状態に戻されました。しかし、残されていた布は2002年に最終的に除去され、現在の姿となりました。

作品の評価

『ヴィーナスとキューピッド』は、ポントルモの優れた技術と、ミケランジェロの影響を感じさせる作品として、美術史において重要な位置を占めています。その構図や人物表現は、マニエリスムの特徴をよく表しており、当時の美術動向を知る上で欠かせない作品となっています。また、数々の複製や修復の歴史は、この作品が持つ文化的な価値と影響力を示しています。


この作品は、美術史における重要な作品として、今後も多くの人々に鑑賞され、研究されることでしょう。

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