ヴェイユ法

ヴェイユ法：フランスにおける人工妊娠中絶合法化への道

ヴェイユ法（1975年1月17日付法律第75-17号）は、フランスにおける人工妊娠中絶の合法化を決定づけた画期的な法律です。当時のジスカール・デスタン大統領の下で厚生大臣を務めたシモーヌ・ヴェイユが中心となり、法案は国民議会で激しい議論を巻き起こしました。

中絶をめぐるフランスの歴史

フランスでは、長らく中絶は違法とされていました。1810年の刑法典では堕胎罪として処罰され、20世紀に入ると、中絶や避妊に関する情報提供すら禁じられるようになります。非合法な中絶を行う女性は「天使を作る女」と婉曲的に呼ばれ、危険な状況下で手術が行われていました。

1967年、避妊薬の使用を合法化する「ヌーヴィルト法」が成立し、状況はわずかに改善されます。しかし、中絶の自由化を求める声は、1970年代の女性解放運動の高まりとともに、ますます大きくなっていきました。

1971年には、シモーヌ・ド・ボーヴォワールらが起草した「343人のマニフェスト」が発表され、多くの著名人が中絶経験を告白し、中絶の自由化を訴えました。これは社会に大きな衝撃を与え、中絶に関する議論を活発化させるきっかけとなりました。

1972年には、強姦被害者の女子学生が中絶手術を受けたとして起訴された「ボビニー裁判」で、弁護士のジゼル・アリミが中絶禁止法の不当性を主張し、無罪を勝ち取ります。この裁判は、中絶合法化運動を大きく後押ししました。

ヴェイユ法の成立

1974年11月、シモーヌ・ヴェイユは国民議会で法案を提出し、中絶は例外的な措置であるべきとしながらも、現実的な対応の必要性を訴えました。しかし、法案は保守派からの激しい抵抗を受けました。中には、ヴェイユのユダヤ人としての出自を攻撃し、中絶をホロコーストになぞらえる議員もいました。

ヴェイユは涙ながらに反論し、中絶を必要とする女性たちの苦悩を訴えました。最終的に、1974年11月29日、法案は賛成284票、反対189票で可決され、1975年1月17日に施行されました。これにより、フランスはカトリック国としては初めて、人工妊娠中絶を合法化しました。

ヴェイユ法の枠組み

ヴェイユ法では、妊娠12週以内であれば、女性の自由な意思に基づいて中絶が可能となりました。ただし、専門家による許可が必要であり、他に手段がない場合に限られます。また、胎児に重度の奇形がある場合や、母体の生命に危険がある場合は、妊娠12週以降も中絶が認められます。

ヴェイユ法その後

ヴェイユ法は、その後も何度か改正されています。1979年には恒久法となり、1982年には中絶費用が保険適用となりました。近年では、中絶を妨害する活動を取り締まる法律も制定されています。

2024年現在、フランスでは年間約20万件の中絶が行われています。ヴェイユ法は、フランスの女性の権利擁護における重要な一歩であり、その影響は今日まで続いています。

関連情報

• - シモーヌ・ヴェイユ
• - 343人のマニフェスト
• - ボビニー裁判
• - ジゼル・アリミ
• - シモーヌ・ド・ボーヴォワール
• - 人工妊娠中絶

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