堕胎罪

堕胎罪について

堕胎罪とは、日本の刑法において、人間の胎児を堕胎させた場合に適用される罪名です。刑法第2編第29章の堕胎の罪（刑法212条 - 刑法216条）に規定されています。

概要

保護法益

堕胎罪は、胎児を保護するとともに、間接的に母体の保護も目的としています。

客体

本罪の客体は「胎児」です。「胎児」とは、母体に着床し懐胎されているヒトを指します。日本の刑法における通説・判例では、人の始期について一部露出説を採用しています。したがって、胎児の一部が母体から露出した時点で、殺人罪の客体である「人」となり、以後は殺人罪として扱われます。

行為

本罪の行為は「堕胎」です。「堕胎」とは、自然な分娩期に先立って、人為的に胎児を母体から分離することを意味します。胎児がその結果として死亡するかどうかは、犯罪の成立には影響しません。

母体保護法による違法性阻却

母体保護法（以前は優生保護法）14条に基づき、都道府県医師会が指定した医師が行う堕胎は、罰せられません。多胎妊娠の際に実施される減数手術も、これに準じて扱われ、罰せられないとされています。そのため、刑法の堕胎に関する規定は、不同意堕胎・同未遂・同致死傷罪を除き、ほとんど適用されない状況にあるとも言えます。しかし、「殺人罪や傷害罪の客体としての"人"には原則として胎児が含まれない」と解釈するための根拠として、重要な意味を持っています。

各類型の堕胎罪

自己堕胎罪

自己堕胎罪は、母体の安全も保護法益としているため、女性自身の行為については法定刑が軽減されています。妊娠中の女性が主体となる身分犯です。

同意堕胎及び同致死傷罪

女性の嘱託または承諾がある場合、法定刑は軽減されます。

業務上堕胎及び同致死傷罪

医師など一定の身分を有する者が、女性の嘱託または承諾を得て堕胎を行った場合、より重く処罰されます。「医師、助産師、薬剤師又は医薬品販売業者」が主体となる身分犯です。

不同意堕胎罪

不同意堕胎罪は、1998年以降、2010年時点で未遂と致死傷を含めても、適用例は非常に少ないです。

不同意堕胎致死傷罪

不同意堕胎罪を基本犯とする結果的加重犯です。

関連用語

人工妊娠中絶
胎児の人権
産児制限
妊娠
早産
流産

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