ヴェルンド

ゲルマン伝承の天才鍛冶師ヴェルンド：その生涯と伝説

ヴェルンド（Völundr、Wayland Smith、Wielandなどとも呼ばれる）は、北欧神話やゲルマン伝承における、類まれな技量を持つ鍛冶師として知られています。複数の伝承に登場し、その卓越した技術と波乱に満ちた人生は、古くから人々の心を掴んで離しません。本稿では、彼の物語を複数の文献を元に詳細に解説します。

『ヴェルンドの歌』：王の怒りと壮絶な逃亡

古エッダの『ヴェルンドの歌』は、ヴェルンドの物語を最も詳細に描いた作品の一つです。この歌によれば、ヴェルンドはフィンランド王の三男。兄弟と共に暮らし、ある日出会ったワルキューレを妻とします。しかし、彼女たちは数年後に去り、ヴェルンドは一人残されます。

その後、スウェーデン王ニーズズはヴェルンドの寝込みを襲い、彼を捕らえて宝を奪い、膝の腱を切られて島に幽閉されます。ニーズズのために働き続けるヴェルンドですが、ある日、王子の殺害という重大な事件を起こします。ヴェルンドは、二人の王子の遺体を使って、王と王妃、王女にそれぞれ恐ろしい贈り物（杯、宝石、装飾品）を贈ります。さらに、腕輪の修理に訪れた王女ベズヴィルドを襲い、子を身ごもらせます。

その後、自由を手に入れたヴェルンドは王に王女の無事を誓わせると、自身の犯行を明かし、空へ飛び去って行きました。この物語は白鳥処女説話（Swan maiden）の要素も持ち合わせており、ヴェルンド伝説が『ヴェルンドの歌』以前から存在していたことを示唆しています。

『シズレクのサガ』：巨人ヴァジの子としてのヴェルンド

散文作品『シズレクのサガ』の『ヴェレントの話』では、ヴェルンド（ヴェレント）は巨人ヴァジと人魚の間に生まれた子供として描かれています。修行時代を経て、ユトランド王ニズング（ニーズズ）に仕えることになります。宮廷鍛冶師との腕比べに勝利したり、盗まれた道具を取り戻したりと活躍するものの、王の寵臣を殺害したことから追放され、脚の腱を切られて鍛冶小屋に閉じ込められます。

ここで、彼は再び王の息子を殺害し、その遺体を使って作った宝物を王に贈ります。そして、王女バドヒルド（ベズヴィルド）との関係、弟エギルとの協力による壮絶な脱出劇が描かれます。最終的には王の息子オトヴィンと和解し、バドヒルドと結婚、故郷へと戻ります。この物語では、ヴェルンドとバドヒルドの子が、後にディートリヒ伝説に登場する英雄ヴィズガであるとされています。

古英語作品への言及と考古学的証拠

古英語の文学作品、『ベーオウルフ』や『デオールの嘆き』では、ヴェルンドは卓越した職人、または逆境に耐える強い人物として言及されています。

7世紀のフランクスの小箱には、ヴェルンドがベズヴィルドに酒杯を差し出す場面が描かれています。また、イギリスのウェーランドの鍛冶場と呼ばれる墳丘は、ヴェルンド伝説と結び付けられています。これらの考古学的遺物は、ヴェルンド伝説が実際に人々の間で語り継がれてきたことを裏付ける証拠と言えるでしょう。

結論

ヴェルンドの物語は、優れた技術、大胆不敵な行動、そして悲劇的な運命を織り交ぜた、魅力的な伝承です。様々な文献や考古学的証拠を通じて、その存在は実在の人物だった可能性も示唆されており、研究対象としても非常に興味深い存在です。彼の物語は、人々の心に深く刻まれた、忘れがたい伝説として、これからも語り継がれていくことでしょう。

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