ヴェンド十字軍

ヴェンド十字軍とは

ヴェンド十字軍（Wendenkreuzzug）は、1147年に提唱され、ポラーブ語諸族（ヴェンド人）に対して行われた北方十字軍の一つです。これは、神聖ローマ帝国のドイツ王国が主導した第2回十字軍の一環でもありました。

背景

10世紀以来、神聖ローマ帝国は東方への拡大政策を推進し、西スラヴ人の土地への進出を図っていました。教会はマイセン、ブランデンブルクなどに司教区を設置し、領土を管理しました。しかし、983年にスラヴ人が大規模な反乱を起こし、ドイツの支配領域は一時的に後退しました。12世紀に入ると、ブレーメンとマクデブルクの大司教は、平和的な手段でスラヴ人をキリスト教化しようと試みました。

1140年代には、ホルシュタインの貴族が異教徒のヴァグリア族の居住地に進出。ホルシュタイン伯アドルフ2世は、リューベックやラーツェブルクなどのポラーブ人の居住地の支配権を握りました。アドルフ2世は、ヴァグリアのドイツ植民化とキリスト教布教を奨励しました。

1144年のエデッサ伯国陥落を受け、教皇エウゲニウス3世は第2回十字軍を提唱。当初、ザクセン人は中東への十字軍に消極的でしたが、ベルナルドゥスの説得により、スラヴ人に対する軍事行動に同意しました。教皇エウゲニウス3世は、スラヴ人に対する十字軍と聖地奪還の十字軍で得られる精神的な救済に違いはないという教皇勅書を発行しました。

聖戦

1147年6月、スラヴ人の族長ニクロトは、アドルフ2世の十字軍参加に憤慨し、ヴァグリアを侵攻しました。これが、同年晩夏の十字軍を引き起こす原因となりました。アドルフ2世は、ニクロトとの平和協定を結んだため、十字軍はオボトリート族の要塞ドービンとリウティッツ族の砦デミンを標的に定めました。

ドービンを攻撃する部隊には、デンマーク王クヌーズ5世、ブレーメン大司教アーダルベルト2世、ザクセン公ハインリヒ獅子公らが参加。ニクロトは巧みにドービンの湿地帯を防衛し、デンマーク軍は撤退しました。ハインリヒ獅子公はドービンの包囲を続けましたが、ニクロトがドービン駐屯軍の洗礼に同意したため、撤退しました。

ドービン攻略後、ザクセン軍はデミンと対峙。しかし、デミンの包囲も不成功に終わったため、十字軍はポンメルンへ進軍。既にキリスト教化されていた都市シュチェチンへ向かいましたが、同市の司教に阻止されました。十字軍は、司教やポンメルンの侯との協定を結び、解散しました。

戦後

ヴェンド十字軍は、ドイツのザクセン人がヴァグリアとポラビアの支配権を確立し、ニクロトの勢力をリューベック以東に限定する結果となりました。ザクセン人はニクロトから献納を受け、ハーフェルベルク司教の植民を可能にしました。しかし、十字軍の指導者たちは互いに相手の行動を非難し合い、ヴェンド人のキリスト教化はほとんど進みませんでした。

クレルヴォーのベルナルドゥスによれば、十字軍の目的は「神の救済により彼らが改宗するか取り除かれる」ことでしたが、ヴェンド十字軍はヴェンド人のほとんどを改宗させることはできませんでした。ポンメルンのアルベルトは「キリスト教の信仰を強めたいなら…、武力ではなく説教によらなければならない」と述べています。

また、メクレンブルクとポンメルンの中部地方の田園地域は、ハインリヒ獅子公の兵士による略奪によって人口が激減しました。ボーサウのヘルモルトは「キリスト教化のためではなく、金のためだけに行われた」と記しています。戦いによってスラヴ人は多くの生産手段を失い、将来的な抵抗も困難になりました。

関連項目

北方十字軍
第2回十字軍

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