ヴォイチェフ・キラール

ヴォイチェフ・キラール（Wojciech Kilar、1932年7月17日 - 2013年12月29日）は、20世紀後半から21世紀初頭にかけて活動したポーランドの多才な作曲家です。現代音楽の分野でキャリアをスタートさせた後、映画音楽の大家としても世界的な知名度を獲得しました。

生涯とキャリア

キラールは、現在のウクライナ領リヴィウであるルヴフに生を受けました。ポーランド国内のカトヴィツェで音楽の基礎を学んだ後、フランスのパリに留学し、伝説的な音楽教師ナディア・ブーランジェのもとでさらに研鑽を積みました。彼の初期の活動は、1960年代のポーランドにおける現代音楽のアバンギャルド運動と密接に関連しています。クシシュトフ・ペンデレツキやヘンリク・グレツキといった同時代の作曲家たちと共に、ポーランド楽派の一員として前衛的な作品を発表し、いくつかの賞を受賞しました。

この現代音楽の時期における代表作の一つに、1974年に作曲された交響詩『クシェサニ』があります。この作品は彼の名を広く知らしめることとなりました。

しかし、1970年代中盤以降、キラールの活動は映画音楽の分野へと大きく広がっていきます。彼はポーランド国内で数多くの映画の音楽を手がけ、その才能は次第に国際的な注目を集めるようになりました。特に著名な映画監督ロマン・ポランスキーとの協業は、彼のキャリアにおいて重要な転機となります。ポランスキー監督のハリウッド作品の音楽を担当したことで、彼は世界中の観客にその名を知られるようになりました。

宗教的な作品も彼の重要な創作分野の一つです。2001年1月にワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団によって初演された、交響楽団、混声合唱、そして4人の独唱者のための『平和へのミサ A.D.2000』は、その年の12月にはバチカン市国でヨハネ・パウロ2世の前でも演奏され、大きな感動を呼びました。

主要作品

キラールの作品は多岐にわたります。彼は管弦楽、協奏曲、室内楽、ピアノ曲、声楽曲など、様々なジャンルの作品を創作しました。

現代音楽・クラシック作品

管弦楽曲: 初期には『小序曲』や『弦楽のための交響曲』といった作品があり、アバンギャルド期には『Riff 62』、『Generique』などが生まれました。後期には『オラヴァ』や『コラール前奏曲』といった弦楽オーケストラのための作品、そして『Requiem Father Kolbe』のような大規模な作品も作曲しています。
交響曲: 2003年には『セプテンバー・シンフォニー』を発表しています。
協奏曲: 『ピアノとオーケストラのための協奏交響曲』や、後年の『ピアノ協奏曲』などがあります。
声楽曲: 『灰色の霧』、『ボクロジカ』、『出エジプト記』、『ヴィクトリア』、『アンジェラス』などがあり、特に『平和へのミサ A.D.2000』は大規模な声楽作品として知られています。無伴奏合唱のための『ラメント』も作曲しています。

映画音楽

ヴォイチェフ・キラールは生涯で約130本もの映画音楽を作曲しました。ポーランド映画界での初期の活動から、国際的な大作まで幅広く手掛けています。

特に国際的に著名な作品としては、以下が挙げられます。

『ドラキュラ』（1992年）
『死と処女』（1994年）
『ある貴婦人の肖像』（1996年）
『ナインスゲート』（1999年）
* 『戦場のピアニスト』（2002年）

これらは全てロマン・ポランスキー監督の作品であり、彼の音楽が映像世界に深みを与えています。また、トゥルーマン・ショー（1998年）では、既存曲『Requiem Father Kolbe』の一部が使用されています。ポーランド国内の作品では、『約束の土地』（1974年）、『コルチャック先生』（1990年）などもよく知られています。

ヴォイチェフ・キラールは、その多様な作品群と、現代音楽と映画音楽という異なる分野で成功を収めた稀有なキャリアを通じて、20世紀後半のポーランド音楽界に確固たる足跡を残しました。彼の音楽は、聴衆に深い感動と強い印象を与え続けています。

もう一度検索