キプチャク

キプチャク(Кипчаки)

キプチャクは、11世紀から13世紀にかけて現在のウクライナからカザフスタンにかけて広がる草原地帯に居住していたテュルク系の遊牧民族です。この民族は、ルーシの史料ではポロヴェツと称され、東ローマやハンガリーの史料ではクマンとして言及されています。彼らが支配した地域は、後にキプチャク草原と呼ばれ、モンゴル帝国のジョチ・ウルスが形成された背景にもなっています。

名称の変遷

キプチャクの名称は歴史と地域によって多様です。『元朝秘史』では「乞卜察兀惕」や「欽察兀惕」と表記され、『元史』では「欽察」や「欽叉」と漢字に転写されています。また、イスラム文献では「キフシャーク」や「キフチャーク」と記載されます。ルーシの年代記では「ポロヴェツ」及び「ポロフツィ」と称され、この名称は「平原の民」または「黄ばんだ色の人々」を意味します。ビザンツ帝国やハンガリーでは「クマン」として知られ、これはクバン川に由来しています。

キプチャクの歴史

キプチャクは、11世紀頃にヴォルガ川地域から黒海沿岸のステップ地域へと進出しました。彼らはペチェネグに代わり、ルーシ諸国にとっての新たな脅威と位置付けられました。1091年、彼らは東ローマ帝国のアレクシオス1世を支援し、バルカン半島のペチェネグ軍を壊滅させましたが、同時にキエフ・ルーシに対する襲撃や略奪をも行っていました。特に1096年にはキエフの修道院が焼失するなど、被害が続きました。

12世紀初頭には、キエフ・ルーシの公たちがキプチャクとの戦いを繰り広げ、一時的に彼らの勢力を弱体化させました。その後、ルーシ諸侯との関係が深まる中で通婚や定住が行われ、両者にとって互いに重要なパートナーシップが形成されていきました。しかし、1170年代から1180年代にかけてキプチャクが再びルーシに侵攻し、激しい戦闘が続きます。

1223年、キプチャクはモンゴル軍に襲われ、その後ジョチ・ウルスに組み込まれます。この戦争の余波で多くのキプチャク人が他地域に移住することになります。一部はハンガリーに移住し、クマン人として知られるようになりました。

キプチャクの文化的影響

キプチャクは様々な部族で構成され、全体で「十一部族」と呼ばれるような独自の文化を持っていました。彼らの日常生活や社会構造は、遊牧生活に根ざしたものであり、特有の信仰や儀礼も存在しました。また、彼らは芸術や文学においても重要な役割を果たし、特にモンゴルとの接触を通じてイスラム文化の影響を受けた痕跡が見られます。

著名な人物

キプチャクの歴史において重要な人物には、コンチャーク汗やストヴィチ・コチャンがいます。コンチャークはイーゴリ公を捕虜にしたことで知られ、ストヴィチ・コチャンはポロヴェツの有名な侯の一人で、ダニイルに対抗したことでも名が知れています。彼らはキプチャクとルーシの歴史的交渉や戦争において重要な役割を果たしました。

結論

キプチャクの歴史は、テュルク系遊牧民族がどのように現代ウクライナやカザフスタンの地域に影響を与えたかを知る手がかりともなります。彼らはその後の歴史的変遷においても重要な位置を占めており、現代に至るまでその足跡は多くの文化や地域に残されています。

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