ヴォルフラム・クリスト

1955年に旧西ドイツで生まれたヴォルフラム・クリストは、現代ヴィオラ界における最も重要な音楽家の一人として広く認められています。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席ヴィオラ奏者として長年にわたり活動し、その後はソリスト、室内楽奏者、そして教育者として国際的なキャリアを築いています。

音楽への道と初期のキャリア

クリストが最初に音楽に触れたのは6歳の時、ヴァイオリンからでした。12歳でヴィオラに転向した背景には、家族と共に室内楽を演奏したいという温かい願いがありました。彼はその後、フライブルク音楽大学でヴィオラ奏者・教育者として名高いウルリヒ・コッホに師事し、専門的な研鑽を積みます。学生時代の輝かしい成果としては、1976年に20歳で出場したミュンヘン国際音楽コンクールでの2位入賞が挙げられます。この時の1位は、後にヴィオラ界の第一人者となるユーリ・バシュメットでした。

ベルリン・フィルでの活躍

クリストのキャリアにおける最も特筆すべき時期は、1978年に22歳でベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席ヴィオラ奏者に就任したことから始まります。彼は指揮者ヘルベルト・フォン・カラヤンの晩年から、クラウディオ・アバドが音楽監督を務めた時代にかけて、20年以上にわたりオーケストラの重要なセクションを率いました。ベルリン・フィルの首席奏者として、彼はオーケストラのサウンドを支えるだけでなく、ソリストとしても同楽団と度々共演し、数々の録音を残しています。代表的なものとして、ベルリオーズの『イタリアのハロルド』やリヒャルト・シュトラウスの『ドン・キホーテ』、バルトークやヒンデミットのヴィオラ協奏曲などが挙げられます。これらの録音は、彼の豊かなヴィオラサウンドと確かな技術を今日に伝えています。

オーケストラ活動と並行して、室内楽にも深く傾倒しました。1993年には、当時のベルリン・フィルのコンサートマスター、ライナー・クスマウル（ヴァイオリン）と、チェリストのゲオルク・ファウストと共に「アルノルト・シェーンベルク・トリオ」を結成。このトリオとしても録音活動を行い、室内楽奏者としての高い能力を示しました。

教育活動と新たなステージ

優れた演奏家であると同時に、クリストは教育者としても国際的に貢献しています。1995年にはオーストラリアのシドニー音楽院で芸術監督を務め、1998年からは母校であるフライブルク音楽大学の教授として教鞭を執り、次世代のヴィオラ奏者の育成に力を注いでいます。

1999年、彼はベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を退団し、ソリストや室内楽奏者としての活動に重点を置くことを選択しました。この決断により、彼の幅広い音楽性がさらに発揮されることとなります。現在も世界各地で演奏活動を展開し、多くの聴衆を魅了しています。

クラウディオ・アバドとの絆と家族

クリストと指揮者クラウディオ・アバドの関係は深く、アバドが創設に尽力したルツェルン祝祭管弦楽団には、アバド本人からの招聘を受けて創設メンバーとして参加しました。現在も同楽団の首席ヴィオラ奏者として、夏の音楽祭を中心に活動しており、その存在は楽団にとって不可欠なものとなっています。

また、私生活においては、彼の息子も音楽家の道を歩んでおり、現在はあるオーケストラでコンサートマスターを務めていることが知られています。

ヴォルフラム・クリストは、オーケストラの首席奏者としての長年の経験、ソリストとしての表現力、室内楽における深い協調性、そして教育者としての情熱を兼ね備えた、現代ヴィオラ界を代表する存在です。彼の音楽は、ヴィオラの持つ可能性を最大限に引き出し、聴く者に深い感動を与え続けています。

もう一度検索