ヴォールト (細胞小器官)

ヴォールト（Vault）とは

ヴォールト（vault）は、真核生物の細胞質に存在する比較的大型の細胞小器官です。1980年代にナンシー・ケデルシャとレオナルド・ロメによって発見されました。電子顕微鏡観察では、教会建築のヴォールト天井のような特徴的な39回対称構造が確認されています。その機能はまだ完全には解明されていませんが、細胞内輸送、薬剤耐性、免疫応答など、多岐にわたる細胞機能に関わっていると考えられています。

ヴォールトの構造

ヴォールトは、リボソームの約3倍の大きさを持つ巨大なリボヌクレオタンパク質複合体です。主にタンパク質で構成されており、主要ヴォールトタンパク質（MVP）と副ヴォールトタンパク質が結合して複合体を形成します。2009年には、月原冨武らの研究グループによってX線結晶構造解析が行われ、原子レベルでの詳細な構造が解明されました。

ヴォールトは、複数の主要ヴォールトタンパク質と一つの副ヴォールトタンパク質からなる複合体が二つ組み合わさって筒状の構造を形成しています。また、内部には86～141塩基程度の短いRNAが含まれていることがあります。

ヴォールトの機能

ヴォールトの機能はまだ完全には解明されていませんが、以下のような機能に関与していると考えられています。

核-細胞質間の物質輸送: 核膜孔複合体との関連が示唆されており、核と細胞質の間での物質の輸送に関与している可能性があります。
mRNAの局在化: 細胞内でのmRNAの分布を制御する役割を担っていると考えられています。
薬剤耐性: 多剤耐性を示すがん細胞でヴォールトの発現量が増加していることが知られており、薬剤耐性との関連が示唆されています。
細胞シグナル伝達: 細胞内外からのシグナルを伝達する経路に関与している可能性があります。
自然免疫: 脂質ラフトの一部として、病原体に対する免疫応答に関与している可能性が指摘されています。

マウスやタマホコリカビを用いた遺伝子ノックアウト実験では、ヴォールトタンパク質を欠損させても生存可能であることが示されています。これは、ヴォールトが担う機能が他の分子によって代替される冗長性があることを示唆しています。

がんとの関連

多剤耐性を示すがん細胞において、ヴォールト（特にMVP）の発現量が増加していることが報告されています。ヴォールトの増加が薬剤耐性の直接的な原因であるとは断定できませんが、薬剤耐性機構の解明や、新たな抗がん剤の開発につながる可能性があります。

自然界における分布

ヴォールトは、多様な真核生物種に存在します。しかし、モデル生物としてよく用いられるシロイヌナズナ、C. elegans、キイロショウジョウバエ、出芽酵母などには存在しないことが知られています。ヴォールトの配列は生物種間でよく保存されており、進化的に重要な役割を果たしていると考えられています。

参考文献

主要ヴォールトタンパク質
ヴォールトRNA
ヴォールトウェブサイト (UCLA)
Vault Ribonucleoprotein Particles - MeSH・アメリカ国立医学図書館・生命科学用語シソーラス（英語）
Rfam page for Vault RNA

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