ヴードゥー・ラウンジ

ローリング・ストーンズ『ヴードゥー・ラウンジ』：ブルースを基調とした力作

1994年、ローリング・ストーンズはヴァージン・レコードとの契約下で、オリジナル・アルバム『ヴードゥー・ラウンジ』(Voodoo Lounge)をリリースしました。この作品は、前作『スティール・ホイールズ』から5年ぶり、そしてベーシストのビル・ワイマン脱退後初のアルバムという重要な位置づけを持っていました。

ミック・ジャガーとキース・リチャーズは、それぞれソロアルバム『ワンダーリング・スピリット』、『メイン・オフェンダー〜主犯〜』を発表した後、1993年4月から新作の制作に着手。共同プロデューサーとしてドン・ウォズを迎え、アイルランドでのリハーサルを経て、9月から本格的なレコーディングが始まりました。レコーディングはダブリンのスタジオで行われ、その後ロサンゼルスへと移されました。

ビル・ワイマン脱退後、バンドは正式なベーシストを据えることなく、代役としてダリル・ジョーンズが参加。興味深いのは、クレジットに「ミステリーギター」「ミステリードラム」といった表記がある点です。「ムーン・イズ・アップ」でチャーリー・ワッツが担当したミステリードラムは、ポリバケツをスティックで叩いた音と言われています。アルバム制作には、様々な実験的な試みが見られました。

『ヴードゥー・ラウンジ』は1994年7月に発売され、イギリスでは1位、アメリカでは2位を記録、ダブルプラチナを獲得しました。しかし、音楽評論家の中には、『スティール・ホイールズ』とは対照的にサウンドが希薄だと指摘する声もありました。それでも、ブルースを大胆に解釈した楽曲の数々や、ドン・ウォズとの絶妙なコラボレーションは高く評価され、ローリング・ストーンズの音楽的才能を改めて示す作品となりました。

先行シングル「ラヴ・イズ・ストロング」はイギリスで14位を記録するも、アメリカではチャートインを逃し、ストーンズにとって初めてのチャート圏外シングルという不名誉な記録となりました。しかし、アルバム全体としては大きな成功を収め、1995年にはグラミー賞最優秀ロック・アルバム賞を受賞。その後も「ユー・ガット・ミー・ロッキング」「アウト・オブ・ティアーズ」といったシングルがリリースされ、イギリスではマイナーヒット、アメリカではラジオで頻繁にオンエアされるなど、アルバムからの楽曲は世界中で広く親しまれることとなりました。

これらのシングルのカップリングには、アルバム未収録のアウトテイクが使用されているのも特徴です。「ラヴ・イズ・ストロング」には「ザ・ストーム」と「ソー・ヤング」、「ユー・ガット・ミー・ロッキング」には「ジャンプ・オン・トップ・オブ・ミー」、「アウト・オブ・ティアーズ」には「アイム・ゴナ・ドライヴ」が収録されています。日本盤CDには、ストーンズファンの山川健一による書き下ろし小説が歌詞カードに掲載されました。また、Windows 95用インタラクティブCD-ROMも発売され、当時としては革新的な試みでした。

アルバムにはブルースを再解釈した楽曲が多数収録されており、「ラヴ・イズ・ストロング」「ユー・ガット・ミー・ロッキング」「アウト・オブ・ティアーズ」「アイ・ゴー・ワイルド」など、多くの楽曲がアルバムからのシングルとしてリリースされ、世界中で高い人気を博しました。中には歌詞に問題のある語句が含まれる楽曲もあり、一部編集されたバージョンも存在します。

『ヴードゥー・ラウンジ』は、1994年8月から始まるワールドツアー「Voodoo Lounge Tour」と連動してリリースされ、北米、南米、オーストラリア、ヨーロッパなどで大規模なツアーが行われました。日本でも東京ドームと福岡ドームで複数公演を開催し、大きな成功を収めました。

『ヴードゥー・ラウンジ』は、バンドの変革期における重要な作品であり、新たなサウンドと挑戦的な試みによって、ローリング・ストーンズの音楽史に大きな足跡を残しました。ブルースをルーツとしながらも、現代的なサウンドを取り入れ、多様な音楽性を提示したこのアルバムは、ストーンズの音楽的幅広さを示す象徴的な作品と言えるでしょう。

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