一ノ瀬泰造

一ノ瀬泰造

一ノ瀬泰造（いちのせ たいぞう、1947年11月1日 - 1973年11月29日）は、昭和時代に活躍した日本の報道写真家です。ベトナム戦争やカンボジア内戦といった激戦地で、その現実を写真に収めました。彼の短い生涯は、戦場の真実を伝える貴重な記録として、今もなお多くの人々に影響を与えています。

生い立ちと学生時代

一ノ瀬泰造は、佐賀県武雄市で一ノ瀬清二と信子の長男として生まれました。武雄高校時代には物理部の部長を務める傍ら、写真部門で才能を発揮。また、野球部にも所属し、甲子園にも出場するなど、多彩な才能を持つ青年でした。1966年4月には日本大学芸術学部写真学科に入学し、写真家としての基礎を築きました。

戦場カメラマンへの道

大学卒業後、UPI通信社東京支社に勤務しますが、3ヶ月で退社。その後、フリーランスの戦争カメラマンとしての道を歩み始めます。米軍キャンプの写真屋で資金を貯め、インド・パキスタン戦争を皮切りに、戦場での取材活動を開始。1972年3月には、ベトナム戦争が激化していたカンボジアに入国し、過酷な戦場の現実を目の当たりにします。

アンコールワットへの執念と最期

一ノ瀬は、アンコールワットへの強い憧れを抱いていました。クメール・ルージュの兵士と接触を試みるも、フィルムを奪われ国外退去となります。その後もベトナム戦争、カンボジア内戦を取材し続け、『アサヒグラフ』や『ワシントン・ポスト』などのメディアで活躍。1973年、一時帰国したものの、再びカンボジアへ。単独でアンコールワットへの一番乗りを目指し、11月、友人宛に「旨く撮れたら、東京まで持って行きます。もし、うまく地雷を踏んだら“サヨウナラ”！」と手紙を残して潜入。その後、消息を絶ちました。

遺体発見とその後

9年後の1982年、一ノ瀬が住んでいたシェムリアップから14km離れた場所で遺体が発見されました。両親によって本人と確認され、1973年11月22日か23日にクメール・ルージュに捕らえられ、29日に処刑されていたことが判明しました。

一ノ瀬の死後、その生涯は書籍や舞台、映画などで取り上げられました。特に、1999年に公開された映画『地雷を踏んだらサヨウナラ』は、若者を中心に大きな話題を呼びました。また、彼の没後30年にあたる2003年には、ドキュメンタリー映画『TAIZO〜戦場カメラマン・一ノ瀬泰造の真実〜』も制作され、改めてその人生が深く掘り下げられました。

遺されたもの

一ノ瀬が戦場で使用していたニコンFは、弾丸が貫通した状態で自宅に持ち帰られ、現在、ホーチミン市の戦争証跡博物館に展示されています。奇跡的に現像されたフィルムは、写真集『もうみんな家に帰ろー!』に収録され、彼の視点を通して戦場の現実を伝えています。両親は、息子が残した写真の公開に尽力し、写真集の発刊に大きく貢献しました。

2020年には、ニコンミュージアムで企画展「一ノ瀬泰造『戦場の真実､硝煙の中に生きる人々』」が開催され、彼の遺品や写真が展示されました。また、2023年には、武雄市図書館・歴史資料館で『没後50年記念 一ノ瀬泰造展』が開催され、再び彼の作品が多くの人々の目に触れる機会となりました。

一ノ瀬泰造は、その短い生涯の中で、戦争の残酷さ、人間の尊厳、そして平和への願いを写真を通じて表現しました。彼の作品は、今もなお、私たちに多くの問いを投げかけ、戦争と平和について考え続けるきっかけを与えてくれます。

著書

『地雷を踏んだらサヨウナラ：一ノ瀬泰造写真・書簡集』（講談社、1978年）
『遥かなりわがアンコールワット：一ノ瀬泰造写真集』（一ノ瀬泰造写真集刊行委員会、1981年）
『戦場より愛をこめて！：1972-73』（窓社、2004年）

関連書籍

一ノ瀬信子著『わが子泰造よ！：カンボジアの戦場に散った息子を求めて』（合同出版、1985年）
一ノ瀬清二編『一ノ瀬泰造：戦場に消えたカメラマン』（葦書房、1994年）
一ノ瀬泰造撮影、一ノ瀬信子編『もうみんな家に帰ろー！：テンオックネァ、タウプティヤ！：26歳という写真家・一ノ瀬泰造』（窓社、2003年）
一ノ瀬泰造撮影、一ノ瀬信子編『一ノ瀬泰造ぼくが愛した人と村』（窓社、2004年）
一ノ瀬信子著『泰造見てますか？』（窓社、2005年）

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