一光硬式野球部

愛知県名古屋市に本拠地を置き、日本野球連盟に所属していた企業チーム、それが「一光硬式野球部」（いっこうこうしきやきゅうぶ）です。石油製品の販売を手がける株式会社一光が運営母体となり、1993年に産声を上げました。チームの活動拠点としては、合宿所が現在の長久手市（当時は愛知郡長久手町）、練習グラウンドが現在の豊田市（当時は西加茂郡藤岡町）に置かれていました。15年間にわたる活動の後、2007年にチームの歴史に幕が下ろされました。

チームの歴史と歩み

一光硬式野球部は、1993年に創部されました。中部地方を中心に広範なガソリンスタンド網を展開していた一光が、社会貢献活動の一環として野球部を立ち上げたものです。

創部当初から、強豪ひしめく東海地区において、全国大会出場という高い壁に苦戦を強いられる状況が続きました。この壁を破り、チームを全国レベルに引き上げるため、1997年にはアマチュア野球界で実績のある林敏之氏が熊谷組から監督として招聘されました。

しかし、チームは期待される成績を残すことができず、2000年には厳しい局面に立たされます。当時の矢野裕美子社長から、シーズン後半の活動自粛という異例の命令が下され、選手たちはユニフォームを脱ぎ、親会社の各地のガソリンスタンドで本来の社業に専念する期間を過ごしました。

この困難を乗り越え、チームは2001年に活動を本格化させると、その努力が実を結び始めます。この年、初めて社会人野球日本選手権への出場権を獲得し、全国の舞台に立ちました。さらに翌2002年には、社会人野球の最高峰とされる都市対抗野球の東海地区予選を突破。激戦を勝ち抜き、東海第3代表として念願の本大会に初出場を果たしました。

特に2003年はチームの黄金期と言えるでしょう。この年の社会人野球日本選手権では、全国大会での初勝利を挙げると、その勢いは止まらず、快進撃を続けベスト4まで駒を進めるという輝かしい成績を残しました。

チーム本体は都市対抗野球への連続出場は叶いませんでしたが、2004年にはエースの田中明投手が王子製紙の補強選手として本大会に出場。リリーフ投手としてチームの優勝に大きく貢献し、大会で最も活躍した選手に贈られる権威ある橋戸賞を受賞しました。田中投手は翌2005年にも西濃運輸の補強選手として都市対抗に出場しています。

また、チームからはプロ野球選手も輩出しています。1997年には高橋郁雄選手（外野手）がヤクルトスワローズに、2005年には妹尾軒作選手（投手）がオリックス・バファローズにドラフト指名を受け入団しました。かつて西武ライオンズや広島東洋カープに所属した元プロ野球選手の山田潤氏も、一時期チームに在籍していました。

廃部、そして歴史の終焉

順調に実績を積み重ねていた一光硬式野球部でしたが、突然の逆風が吹き荒れます。2007年の夏、国際的な原油価格の急激な高騰が、運営母体である株式会社一光の経営状況を深刻に圧迫しました。これにより、この年限りでの野球部廃部が報じられることとなります。社会人野球日本選手権の予選で敗れた後、正式に廃部が決定。1993年の創部から数えて15年間の歴史に、残念ながら幕が下ろされることとなりました。

主な大会成績

都市対抗野球大会: 出場1回
社会人野球日本選手権大会: 出場3回、最高成績ベスト4（2003年）
JABA新潟大会: 優勝1回（2006年）

主な出身・在籍選手（一部）

高橋郁雄（外野手） - プロ入り後：ヤクルトスワローズ
妹尾軒作（投手） - プロ入り後：オリックス・バファローズ
山田潤（内野手） - 元プロ野球選手（西武、広島）
青山正克（内野手兼コーチ） - 現在、愛知産業大学硬式野球部監督
上原茂行（捕手） - 現在、東北楽天ゴールデンイーグルス スコアラー
田中明（投手） - 都市対抗野球で補強選手として橋戸賞受賞
森一馬（投手） - 韓国プロ野球でのプレー経験あり

一光硬式野球部は、短い活動期間ながらも全国大会での上位進出やプロ選手の輩出など、記憶に残る活躍を見せました。石油業界の経営環境の変化という時代背景に翻弄され、志半ばで活動を終えることとなったものの、その歴史は東海地区の社会人野球史に確かに刻まれています。

もう一度検索