一式偵察気球

一式偵察気球の概要

一式偵察気球は、大日本帝国陸軍が開発し、運用した偵察用の繋留気球です。開発当初は「フ3」という秘密の名称がつけられていました。この気球は、陸軍技術本部によって砲兵連隊の射撃観測のために設計され、従来の製品よりもサイズや昇騰高度をコンパクトにすることで、迅速な移動を可能にしました。そのため、「砲兵用小気球」とも呼ばれることがあります。

この気球は水素を充填したガス気球であり、軽量ながらも機能的な設計が施されています。開発は風洞試験を経て、必要な形状が決まった後、1935年の2月から3月にかけて、藤倉工業で試作品の製作や基礎的な試験が行われました。初めての昇騰試験は、その年の4月中旬に一宮町の海岸で実施され、成功を収めました。

1936年以降、この気球は陸軍航空技術研究所などに保管され、様々な研究や実用試験が行われました。気球の運用には繋留車や気球車、水素缶車といった関連器材も必要であり、それらも新たに開発されました。特に繋留車は既存の軽牽引車に繋留装置を取り付けたもので、行動速度を調整する工夫がされていました。これらの機材は1939年に富士裾野演習場で行われた総合試験で良好な成績を残しています。

ノモンハン事件時には、一式偵察気球も実用実験を兼ねて派遣され、8月9日から観測活動に参加しました。その際、ソ連軍の攻撃に遭遇し、搭乗していた偵察将校は落下傘で脱出しましたが、気球は炎上して墜落しました。その後も、太平洋戦争の南方作戦においてこの気球は主力の一つとして活躍しました。

気球の名称「一式偵察気球」は試験時から使われていましたが、制式化の有無については意見が分かれています。一部の資料では1941年に制式採用されたとされていますが、確認は取れていません。

諸元

以下は一式偵察気球の基本的なスペックです。

• - 全長: 18.76 m
• - 気嚢最大中径: 5.192 m
• - 気嚢容積: 200 m³または266 m³
• - 自重: 115.685 kg
• - 最大高度: 500 m
• - 繋留索全長: 800 m
• - 装備: 有線電話、落下傘
• - 乗員: 1名

この気球は、戦場における情報収集や砲撃の精度向上に寄与する重要な役割を果たしたのです。

参考文献

• - 佐山二郎『日本の軍用気球 知られざる異色の航空技術史』潮書房光人新社、2020年, ISBN 978-4-7698-3161-7。
• - 秋本実『日本陸軍試作機大鑑』酣燈社、2008年, ISBN 978-4-87357-233-8。

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