万川集海

万川集海（まんせんしゅうかい）

『万川集海』は、江戸時代前期に成立した日本の忍術伝書であり、伊賀国出身の藤林左武次保武によって延宝4年（1676年）に著されました。この書は、現存する忍術伝書の中でも特に重要なものの一つとされ、『正忍記』『忍秘伝』と並び「三大忍術伝書」と称されています。

概要

書名の由来は「細い川も多く集まれば海となる」という思想に由来し、様々な忍術の流儀を統合しようとする意図が込められています。戦乱の時代が終わりを告げた江戸時代前期に、伊賀・甲賀に伝わる古今49流派の忍術を一子相伝の忍書から集め、体系的にまとめ上げた点が特徴です。

そのため、本書の写本や類本が各流派に数多く残されることとなりました。有名なものとしては、大原勝井家本や、甲賀の大原数馬らによって江戸幕府に献上された内閣文庫本が挙げられます。また、真田宝物館でも写本が発見されており、真田幸貫が兵法書とともに収集したと考えられています。

内容

『万川集海』は全22巻で構成され、忍術の理論と実践を網羅しています。

正心: 忍術における倫理的側面を重視し、仁義忠信を説いています。
将知: 忍術に必要な知識や情報を扱います。
陽忍: 忍術の表立った技術や戦術を解説します。
陰忍: 隠密行動や諜報活動など、秘匿性の高い忍術を扱います。
天時: 天候や時間など、自然環境を利用した忍術を解説します。
忍器: 水蜘蛛をはじめとする様々な忍器について、詳細な情報を提供します。

本書は、技術の詳細な説明に重点を置いていますが、一部には口伝や鍛錬が必要な部分も残されています。また、付録として『忍術問答（由来之章）』『忍道梯階論』『和漢忍利証語抄』の3巻が付属しています。

特筆すべき点

巻第十三「隠忍三」に記述されている隠形術の咒（じゅ）には梵語が含まれていますが、その内容から、忍者が修験道の影響を受けつつも、梵語を完全に理解していたとは言い切れないことが指摘されています。

後世への影響

『万川集海』は、忍術研究における重要な文献として、現代においても高く評価されています。また、小説や漫画など、様々な創作作品にも影響を与えています。

参考文献

藤林保義『萬川集海　原書復刻版』誠秀堂、1975年
藤林保義『万川集海 現代語 第四巻 陽忍篇』誠秀堂、1981年
藤林保義『完本 万川集海』国書刊行会、2015年
山田雄司『忍者の歴史』KADOKAWA、2016年

関連項目

伊賀流
甲賀流
藤林氏
水蜘蛛
* くノ一

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