三つの抒情

『三つの抒情』は、作曲家三善晃による女声合唱曲集で、彼の合唱作品における初期の代表作として知られています。この作品は、日本女子大学合唱団からの委嘱を受け、1961年から1962年にかけて作曲されました。初演は、指揮者木下保の指導のもと、同合唱団によって行われました。

この曲集は、三善晃にとって初めての女声合唱作品であり、その後の彼の合唱作品における重要な転換点となりました。三善の作品群の中では、初期の作品に位置づけられ、調性に基づいた明確な拍節構造を持つのが特徴です。後に見られる前衛的な要素はまだ表れていません。

作曲の背景には、指揮者木下保の存在がありました。木下は三善に、以前発表した音楽詩劇「オンディーヌ」の女声のような曲を依頼し、それに応えて三善はまず「ふるさとの夜に寄す」を作曲しました。その後、木下の勧めでさらに2曲を書き加え、全3曲の組曲として完成しました。

この作品が書かれた1962年前後から、三善の作曲活動は合唱曲の割合が増加し、一方で歌曲の割合が減少しました。このことは、日本の合唱活動が1950年代後半から非常に活発になったことと関連しています。三善自身も、自身の作品を歌ってくれる合唱団の存在が、作曲活動を大きく後押ししたと語っています。彼は、女声合唱曲を初めて書く際には、木下保の指導する練習に立ち会い、人の声で音楽を表現することの可能性を確信したと述べています。

『三つの抒情』の特徴の一つとして、ピアノパートが単なる伴奏ではなく、合唱と対等に扱われている点が挙げられます。特にこの作品では、ピアノが音楽の主導権を強く握っており、三善の和声に対するこだわりが顕著に表れています。彼は、女声の音域が最も美しく響く構造体として、ピアノを伴奏に用いることを意識していました。

曲目は以下の通りです。

1. 或る風に寄せて
- 詩：立原道造
2. 北の海
- 詩：中原中也
3. ふるさとの夜に寄す
- 詩：立原道造

楽譜は全音楽譜出版社から出版されています。また、福永陽一郎による男声合唱版も存在しますが、現在では絶版となっています。

『三つの抒情』は、今日においても多くの人々に愛唱される名曲であり、三善晃の作曲家としての転換点を示す重要な作品として、その音楽史的な意義は非常に大きいと言えるでしょう。

もう一度検索