三位一体の論議

アンドレア・デル・サルトの「三位一体の論議」

アンドレア・デル・サルトによる油彩画『三位一体の論議』は、盛期ルネサンスの巨匠の卓越した技量を示す作品です。1517年頃に制作されたこの絵画は、宗教的なテーマを扱いながらも、人間的な感情や優美さを巧みに表現しています。

描かれているもの

絵画の上部には、聖三位一体の荘厳なヴィジョンが描かれています。神、キリスト、聖霊が一体となった姿は、見る者に神聖な印象を与えます。その下には、聖セバスティアヌスとマグダラのマリアが座っており、マグダラのマリアはデル・サルトの妻ルクレツィア・デル・フェーデをモデルにしたとされています。聖人たちの配置は、鑑賞者の視線を中央に導くように計算されており、それぞれが異なる特徴と役割を担っています。

左から右に、聖アウグスティヌス、聖ラウレンティウス、殉教者聖ペテロ、聖フランチェスコの4人の男性聖人が描かれています。聖アウグスティヌスは司教杖を持ち、聖ラウレンティウスは殉教の際に使われた焼き網を携えています。殉教者聖ペテロは、ドミニコ会の衣服を身につけ、頭に剣が刺さった状態で描かれており、アッシジの聖フランチェスコはフランシスコ会の衣服をまとい、聖痕が示されています。これらの聖人たちの表現は、それぞれの伝承や象徴性を尊重しており、デル・サルトの深い知識と洞察力が伺えます。

歴史的背景

この絵画は、ペーリ家に関連する聖人が描かれていることから、ペーリ家からの依頼で制作されたという説があります。また、この作品は、デル・サルトがフィレンツェの聖アウグスチノ修道会派のサン・ガッロ教会のために制作した3番目の絵画でした。他の2つは『サン・ガッロの受胎告知』と『ノリ・メ・タンゲレ』です。

1529年、フィレンツェ包囲戦の直前に、修道院の所有物は安全のためサン・ヤコポ・トラ・フォッシ教会に移されましたが、この教会はその後すぐに破壊されました。階段に描かれた制作年は後から加えられたものであり、ヴァザーリは『画家・彫刻家・建築家列伝』の中で、本作が『ハルピュイアの聖母』（1517年）の後に制作されたと述べています。この制作年は、当時の他の作品との比較から、一般的に受け入れられています。

ボッキの絵画の説明によれば、1557年の洪水で損傷したとされていますが、1985年の修復ではそうした損傷の痕跡は見つかりませんでした。この作品は、17世紀のパラティーナ美術館の目録に含まれており、ウフィツィ美術館に一時的に展示された後、1829年にパラティーナ美術館に戻り、「サトゥルヌスの間」に展示されています。

作品の特徴

『三位一体の論議』は、ルネサンス期の絵画の特徴をよく示しています。聖人たちの表現は、それぞれが個性豊かで、人間味あふれる姿で描かれています。また、色彩の豊かさや、光と影の使い方も優れており、作品全体に深みと立体感を与えています。この絵画は、デル・サルトの卓越した技術と芸術的な感性を物語る傑作と言えるでしょう。

もう一度検索