三味長老

三味長老は、江戸時代の妖怪画集『百器徒然袋』に描かれた日本の妖怪です。作者である鳥山石燕は、その姿を忘れ去られた三味線が妖怪に変化したものとして表現しました。

石燕の解説と三味長老

石燕は三味長老について、「是はこの芸にかんのうなる人の此みちに長たるものと用ひられしその人の器（うつは）の精なるべし」と述べています。これは、かつて三味線の名人が愛用していた楽器が、役目を終えて打ち捨てられた後に妖怪化したという解釈を示唆しています。

また、石燕は解説の冒頭で「沙弥（しゃみ）から長老にはなられず」という諺を引用しています。これは、修行を積んだ僧侶が段階を経て長老になるように、物事には順序があるという意味です。この諺と「三味線（しゃみせん）」の音の類似性、そして『徒然草』第百三十四段にある「不堪の芸を持ちて堪能の座に列り」という一節から、石燕が言葉遊びと物語を組み合わせて三味長老を創作したと考えられています。

浮世絵師・月岡芳年の影響

浮世絵師である月岡芳年は、錦絵『百器夜行』（1865年）において、石燕の三味長老を参考にしたと思われる妖怪を描いています。これは、石燕の描いた三味長老が、当時の人々に広く知られていたことを示唆するものです。

水木しげるによる解釈

水木しげるは、自身の著作において三味長老を、沙弥が長年の修行を経て長老になるように、長い年月を経た三味線が変化した付喪神（器物が変化した妖怪）であると解説しています。この解釈は、石燕の示した「時の流れ」と「物の変化」という要素を強調したものと言えるでしょう。

三味長老は、忘れ去られた楽器が妖怪になるという、どこか物悲しい物語を背景に持っています。それは、物を大切にする心や、時の流れに対する畏敬の念を呼び起こさせる存在として、人々の心に深く刻まれているのかもしれません。

関連妖怪

琴古主
琵琶牧々

もう一度検索