三岐鉄道モハ100形電車

三岐鉄道モハ100形電車とその仲間たち

三岐鉄道モハ100形電車は、1956年（昭和31年）12月に三岐線で電車による旅客輸送が開始された際に導入された、三岐鉄道初の電車です。この導入に合わせて、モハ110形電車と、これらの電動車を制御するクハ200形電車も同時に導入されました。これらの車両は、三岐鉄道の旅客輸送近代化を象徴する存在として、その後の活躍を支えました。

導入の背景

三岐鉄道三岐線は、開業当初から貨物輸送は蒸気機関車、旅客輸送は内燃動車によって行われていた非電化路線でした。しかし、二種類の動力を使用することは、運行経費や効率の面で課題がありました。戦前から電化が検討されていましたが、資金難により実現には至りませんでした。戦後、貨物輸送の近代化のため、内燃動力化と電化が比較検討された結果、1954年（昭和29年）に全線電化が完了。貨物輸送は電気機関車に切り替えられましたが、旅客輸送は内燃動車のままでした。1956年（昭和31年）に旅客輸送も電車化されることになり、モハ100形、モハ110形、クハ200形の計4両が導入されたのです。これらの車両は、新製ではなく、日本国有鉄道（国鉄）から払い下げられた中古車でした。

車両のルーツ

これらの車両は、現在のJR東海飯田線の前身である豊川鉄道が新製した車両群でした。豊川鉄道の国有化に伴い、国鉄籍に編入された、いわゆる「私鉄買収国電」です。

モハ100形: 元は1927年（昭和2年）に大阪鐵工所（現・日立造船）で製造された附201・202で、後に電動車化されモハ80形81・82、さらに国鉄編入後はモハ1620形1620・1621となりました。
モハ110形: 1929年（昭和4年）に日本車輌製造本店で製造されたモハ30形33がルーツで、国鉄編入後はモハ1610形1612となりました。
クハ200形: 1927年（昭和2年）に川崎造船所（現・川崎重工業車両カンパニー）で製造された附22がルーツで、後にクハ60形61、国鉄編入後はクハ5600形5600となりました。

これらの車両は、晩年は広島鉄道管理局管内で運用され、1956年（昭和31年）3月に廃車となった後、東洋工機で改造され、三岐鉄道に導入されました。

さらに、1958年（昭和33年）には西武鉄道からクハ1231形1234を譲り受け、クハ200形201として導入。この車両は、武蔵野鉄道が1940年（昭和15年）に日本鉄道自動車工業で製造したクハ5855形5857が前身で、導入に際して東洋工機で改造されました。

導入後の運用

電車化直後は、乗務員の訓練や検修員の習熟が不十分であったため、内燃動車と併用されました。その後、自社発注のカルダン駆動車が導入されると、三岐鉄道は完全電車化を達成。モハ100形、モハ110形、クハ200形は主力車両として活躍し、モハ100形は1978年（昭和53年）まで、モハ110形は1974年（昭和49年）まで、クハ200形は1977年（昭和52年）まで在籍しました。

車体の特徴

モハ100形とモハ110形は、両運転台構造で、クハ200形は片運転台構造です。各形式とも丸妻形状で貫通扉を備え、側面には片開き扉が3箇所あります。車内はロングシート仕様です。

塗装は、従来の車両がクリームとグリーンのツートンカラーだったのに対し、モハ100形、モハ110形、クハ200形は、クリームとダークブルーのツートンカラーを採用。この塗装は、その後の三岐鉄道の電車の標準色となりました。

モハ100形、モハ110形、クハ200形200は、川崎造船所が製造した「川造型」と呼ばれる車体構造で、リベットを多用した構造が特徴です。モハ100形とモハ110形は半鋼製、クハ200形200は全鋼製です。導入時に外板の張り替え、窓構造の変更、蛍光灯化などの改造が施されました。

モハ100形: 妻面が平面に近く、幕板部が広いのが特徴。側面窓配置はdD1 5D6Ddです。
モハ110形: 「川造型」を忠実に踏襲しつつ、リベットを減らした点が特徴。側面窓配置はdD6D6Ddです。
クハ200形200: 「川造型」そのままの重厚な外観が特徴。側面窓配置はdD6D6D1です。
クハ200形201: 溶接構造の半鋼製車体で、丸妻形状、二段窓が特徴。側面窓は大型の二段窓を採用。

主要機器

三岐鉄道導入時に、一部の機器が東洋工機で換装されました。

制御装置: 日立製作所製のH200TN-1を採用。
主電動機: モハ100形は東芝SE-191、モハ110形は東洋電機製造TDK-31/2-Hに換装。モハ100形は1両あたり4基、モハ110形も後に4基搭載となりました。
制動装置: 日本エヤーブレーキ（現・ナブテスコ）のAMA/ACA自動空気ブレーキを採用。
* 台車: 各形式で異なる台車を装着。モハ100形は日本車輌製造D16と汽車製造BW-78-25A、モハ110形とクハ200形200は日本車輌製造D18と住友製鋼所KS-31Lを、クハ200形201はTR10を装着しました。

運用と終焉

モハ100形、モハ110形、クハ200形は、2両編成を組んで運用され、余剰車は増結用として使用されました。1959年（昭和34年）には、モハ120形、モハ130形、クハ210形との併結運転のため、改造が施されました。しかし、1970年代に入ると老朽化が進み、後継車両の導入に伴い、1974年（昭和49年）から1978年（昭和53年）にかけて全車が廃車となり、現存する車両はありません。


これらの車両は、三岐鉄道の旅客輸送近代化の第一歩を築き、その後の発展に大きく貢献しました。その歴史は、鉄道技術の変遷と、地方私鉄の車両運用の一例として、今も語り継がれています。

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