三度笠

三度笠（さんどがさ）、あるいは文献によっては三度の笠とも称されるこの装束は、竹の皮や菅といった自然素材を編み上げて作られる、顔を深く覆う形状の笠です。現代においては、股旅ものと呼ばれる時代劇や小説などで、渡世人や旅人が身につけている姿が強く印象付けられています。

しかし、その名の由来は意外なところにあります。もともと、江戸、京都、大坂という主要都市間を、毎月三度、8のつく日に出発していた特定の飛脚がいました。彼らは定飛脚と呼ばれ、特に「三度飛脚」として知られており、彼らが旅路で常用していた笠であったことから、この名が定着したと伝えられています。

三度笠の歴史は比較的古く、初めて製作されたのは貞享年間（1684年〜1688年）のこととされています。この頃の三度笠は、実は女性用として考案されたものでした。「大深」と俗称されるほど、顔を深く覆う形状が特徴でした。その深さについて、江戸時代の風俗百科事典『守貞謾稿（もりさだまんこう）』には、「誤って落馬することがある時、面部を傷つけない備えか」といった推測が記されています。また、女性が顔を隠すための深さであったとも考えられています。

女性用の三度笠は、寛延（1748年〜1751年）から宝暦（1751年〜1764年）の頃まで使用された記録がありますが、文化年間（1804年〜1818年）には既に女性用としては使われなくなっていたようです。『塵塚咄（ちりづかばなし）』という文献にもその記述が見られます。女性用の笠は、紐を髷（まげ）の下で輪にして後ろに回し、顎の下で結ぶのが一般的でした。また、女性用の深い笠は妻折笠（つまおりがさ）とも呼ばれました。

時代が下るにつれて、三度笠の主な使用者は男性へと移り変わります。『守貞謾稿』は、「文化以前は旅商専らこれを用ゆ、文化以来は雷盆（すり鉢）形の菅笠を用ゆ、飛脚宰領は今も三度笠を用ゆ」と記しています。この記述から、文化年間を境に、旅商人の間ではすり鉢型の菅笠が主流になったものの、飛脚を束ねる宰領（さいりょう）は依然として三度笠を使い続けていたことがわかります。このように、三度笠は女性用から男性用へと変化し、特に三度飛脚のような旅を生業とする人々の間で重宝されました。

三度笠はその独特な形状を持ちますが、頂の部分が平らな形状の笠は区別され、饅頭笠（まんじゅうがさ）と呼ばれます。

三度笠は、その機能性や歴史的背景だけでなく、日本の文化や物語においても象徴的な存在となっています。例えば、テレビドラマ『てなもんや三度笠』や時代劇『木枯し紋次郎』、あるいは講談や浪曲で有名な清水の次郎長といったフィクションの登場人物が三度笠を被る姿はよく知られています。また、近松門左衛門の浄瑠璃『冥土の飛脚』には三度飛脚が登場し、歌謡曲の世界でも橋幸夫が「潮来笠」「赤い夕日の三度笠」といった楽曲を歌い、美空ひばりの「ひばりの渡り鳥だよ」や田端義夫の「大利根月夜」の歌詞にも三度笠が登場するなど、多くの作品にその名が見られます。さらには、ゲーム『風来のシレン』にもアイテムとして登場するなど、現代のフィクション作品にもその存在感を示しています。

このように、三度笠は単なる旅の道具としてだけでなく、江戸時代の飛脚の歴史、女性の装い、そして日本の時代劇や歌謡曲といった大衆文化に至るまで、多岐にわたる背景を持つ、非常に興味深い笠と言えるでしょう。

もう一度検索