永禄の変

永禄の変：室町幕府崩壊の序曲

永禄の変は、永禄8年5月19日（1565年 6月17日）に発生した、室町幕府13代将軍・足利義輝が三好氏一族によって殺害された事件です。この事件は、単なる暗殺事件にとどまらず、室町幕府の権威失墜と戦国時代の激動を象徴する出来事として、歴史に深く刻まれています。

事件の背景：三好氏の台頭と将軍家との対立

この事件の背景には、三好氏の台頭と、それに伴う足利将軍家との対立が深く関わっています。三好氏は、阿波国の守護代から勢力を拡大し、細川氏との争いを経て、畿内における有力な勢力となりました。特に、三好長慶の時代には、その勢力は絶頂を迎え、将軍・足利義輝と激しく対立しました。

三好氏の台頭

もともと阿波守護代であった三好氏は、主家である細川氏の内部抗争に乗じて勢力を拡大しました。三好元長は堺公方・足利義維を擁立して、時の将軍・足利義晴と対立しましたが、後に晴元に裏切られ自害しました。しかし、元長の嫡男である三好長慶は、父の仇を討ち、細川氏綱を擁立して、晴元から離反しました。長慶は、その後も勢力を拡大し、将軍・足利義輝とも激しく対立します。

足利義輝と三好長慶の衝突

将軍・足利義輝と三好長慶の対立は、武力衝突にまで発展しました。義輝は六角定頼と連携して三好氏に対抗しましたが、敗北を重ね、近江に逃れることになります。その後、和睦が成立し、長慶は幕府の御供衆に列しますが、両者の関係は常に緊張をはらんでいました。義輝は将軍権威の回復を目指し、諸大名との関係強化に努めましたが、三好氏は内部で内紛が頻発し、衰退の一途をたどりました。

永禄の変の勃発

永禄8年、三好氏の当主となった三好義継は、三好三人衆や松永久通らとともに、足利義輝が築いた二条御所を襲撃しました。義継らは、「将軍に訴訟あり」と称して御所を包囲し、将軍の側近を殺害しました。そして、義輝は自ら薙刀を振るって奮戦しましたが、多勢に無勢の中、討死しました。この際、義輝の生母や弟、側室なども殺害されています。

事件の経過

事件当日、三好勢は清水寺参詣を名目に二条御所を包囲し、襲撃を開始しました。義輝は近臣とともに酒宴を催した後、自ら武器を取り、三好勢に立ち向かいました。しかし、圧倒的な兵力差により、義輝とその近臣は全員討ち死にしました。その後、三好勢は御所に火を放ち、多くの殿舎が焼失しました。事件後、三好氏は朝廷から追認を受ける一方、世間からの非難を浴びることになりました。

事件の真相：諸説錯綜

義輝殺害の動機については、諸説があります。

将軍家の分裂解消説: 三好氏が、足利将軍家の分裂を解消するために、足利義栄を擁立しようとしたとする説です。この説では、義輝を排除することで、義栄を将軍に据えようとしたと説明されます。
御所巻説: 三好氏が将軍に対して政治的な要求を行い、その交渉が決裂した結果、衝突に発展したとする説です。この説では、当初から殺害を目的としていたのではなく、偶発的な出来事だったと説明されます。
* 三好氏再興説: 三好氏が、義輝の権威の高まりに対抗し、自らの勢力を回復するために義輝を殺害したとする説です。この説では、三好義継が、当主としての権威を示すために義輝を討ったと説明されます。

松永久秀の関与

松永久秀は、この事件の首謀者の一人として語られることが多いですが、実際には事件当日は大和国に在国しており、直接的な関与はなかったとされています。ただし、久秀の嫡男である久通は、襲撃に参加しており、久秀は事件を黙認していたと考えられています。

事件が与えた影響

永禄の変は、室町幕府の権威を著しく失墜させ、その崩壊を決定づける出来事となりました。義輝の死後、足利義昭が織田信長に擁立されて上洛するまで、室町幕府は事実上機能停止状態に陥りました。この事件は、戦国大名による下剋上の象徴として、後世に大きな影響を与えました。

諸大名の反応

義輝の殺害は、諸大名に大きな衝撃を与え、特に親義輝派の大名らは激怒しました。上杉謙信は「三好・松永の首を刎ねるべし」と誓い、朝倉義景も「前代未聞、是非なき次第」と憤慨しました。これらの反応は、当時の将軍の権威が、依然として大名たちにとって重要なものであったことを示しています。

朝廷の対応

朝廷は、義輝に「従一位・左大臣」の位を追贈し、その死を悼みました。また、正親町天皇は政務を停止し、弔意を示しました。これらの行為は、朝廷もまた、この事件を重大なものとして認識していたことを示しています。

事件後の推移

義輝の死後、足利義昭が織田信長に擁立されて上洛し、室町幕府は再興されました。しかし、その権威はかつてのものとは異なり、信長の傀儡政権としての側面が強かったです。三好氏はその後も各地で勢力を維持しましたが、織田信長の勢力拡大により、徐々に衰退していきました。

結論

永禄の変は、室町幕府の崩壊を加速させただけでなく、戦国時代の動乱を象徴する出来事でした。この事件は、将軍の権威失墜、戦国大名の台頭、そして下剋上の激化といった、当時の社会情勢を反映しており、その後の日本の歴史に大きな影響を与えたのです。

この事件は、多くの謎と諸説に彩られており、いまだにその全容は解明されていません。しかし、その歴史的意義は大きく、今日においても様々な角度から研究され続けています。

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