三村千代子

三村千代子：大正・昭和を彩った名女優

三村千代子（みむら ちよこ）は、1903年（明治36年）に神奈川県横浜市で生まれ、1974年（昭和49年）に70歳で亡くなった日本の女優です。本名は牛原チヨで、映画監督の牛原虚彦の妻であり、同じく映画監督の牛原陽一の母、そして元女優の牛原千恵の祖母にあたります。彼女は、堅実で親しみやすい庶民的な役柄で人気を博しました。

生い立ちと舞台女優としての活躍

横浜元町の口入屋の孫娘として生まれた三村千代子は、祖母が元芸妓で三味線を得意としていた影響から、幼い頃から舞台の世界に足を踏み入れました。9歳頃から新派の高田実一座や村田正雄一座などの舞台に子役として出演し、早くからその才能を開花させていました。

松竹キネマ入社と映画女優としての飛躍

1920年（大正9年）、松竹キネマ合名会社が設立されると、賀古残夢監督の推薦により松竹に入社しました。初主演は『呪いの巫女』でしたが、公開が遅れたため、デビュー作は同年の『悪魔の崖』となりました。映画史家の田中純一郎は、彼女の演技を「舞台出身の割に写実的」と高く評価しています。また、同年公開の『酒中日記』では、「小柄で派手な顔ではないが、演技力は確か」と評され、庶民的な女優としての地位を確立しました。

牛原虚彦との出会いと結婚

同時期に映画監督となった牛原虚彦は、三村千代子の役柄に対する深い理解力と、それを素早く表現に移す才能に魅了され、自身の作品の主演女優として数多く起用しました。『山へ帰る』では、栗島すみ子との共演で好評を博し、続く『狂える剣技』では、サイレント映画でありながら、その巧みな心理表現で観客を魅了しました。地方ロケ中に牛原が倒れた際、三村千代子が看病したことがきっかけで、1922年（大正11年）10月に二人は結婚しました。

結婚後の活躍と引退

結婚後も、『狼の群』『子供の世界』『漂泊の琵琶師』など、牛原監督の作品に数多く出演し、その演技力で観客を魅了し続けました。彼女は性格描写に優れ、「涙の名女優」とも呼ばれるようになりました。1923年（大正12年）には、関東大震災で被災し、妊娠中の身で神戸へ避難しました。船上で台風に遭遇し、ずぶ濡れになりながらも港で「三村千代子だ」と騒がれる一幕もありました。1924年（大正13年）に長男の陽一が誕生した後、徐々に女優としての活動を縮小し、1927年（昭和2年）の『久造老人』を最後に引退し、家庭に入りました。戦災で東京の蓮沼から世田谷の南烏山へ移り住み、4男1女に恵まれましたが、そのうち3人の子供を亡くすという悲劇にも見舞われました。

その後と死

1974年（昭和49年）1月2日、脳溢血のため70歳で亡くなりました。夫の牛原虚彦は当時まで存命で、長女の話によると「亡くなる日まで父と幸せに暮らしていました」とのことです。彼女の墓碑は東京都大田区の覚源院にあります。

親戚関係

女優の鈴木光枝は、三村千代子の母方の親戚にあたります。鈴木光枝が女優を目指して牛原家を訪れた際、三村千代子は彼女に対して「貧乏なら女優にしても良いが、稽古事も習っているような1人娘に辛抱できるような仕事ではない」と諭しました。この言葉で、鈴木光枝はかえって女優への決意を新たにしたとされています。

主な出演映画

悪魔の崖（1921年）
酒中日記（1921年）
山へ帰る（1921年）
狂える剣技（1921年）
* その他多数

三村千代子は、その確かな演技力と親しみやすい人柄で、大正から昭和にかけての映画界を彩った名女優として、今もなお多くの人々に記憶されています。

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