三枝博音

三枝博音（さいぐさ ひろと）

日本の哲学者であり、思想史、科学史、技術史の研究者として知られる三枝博音は、1892年（明治25年）5月20日に広島県山県郡本地村（現在の北広島町）で生まれ、1963年（昭和38年）11月9日に71歳で生涯を閉じました。彼の生涯は、学問への情熱と社会への深い関心に彩られています。

生い立ちと学問への道

三枝博音は、浄土真宗の寺院である浄専坊に生まれ、幼少期から仏教に親しむ環境で育ちました。第四仏教中学（現在の崇徳高等学校）を経て、東京帝国大学文学部哲学科に進学。大学在学中には兵役を経験し、この体験を通じて社会的な問題に強い関心を抱くようになりました。そして、マルクス主義に傾倒し、その思想に深く没頭しました。

1922年に大学を卒業した後、医学史の大家である富士川游に師事し、研究者としての道を歩み始めます。その後、東洋大学、立正大学、法政大学などで教鞭を執り、教育者としても活躍しました。

思想的転換と社会運動

1928年、三枝は無神論運動を起こし、宗教に対して批判的な立場をとります。1931年には半年間ドイツに留学し、この経験が彼の世界観に大きな影響を与えました。帰国後、1932年には戸坂潤らとともに唯物論研究会の創立に参加し、機関誌『唯物論研究』の初代編集部長に就任しました。しかし、1933年に思想弾圧によって1ヶ月間拘禁され、教職を辞することになりました。この事件を機に、富士川らの助言もあり、日本の哲学思想史の研究に本格的に取り組むようになります。

戦後の活動と教育への貢献

戦後、三枝は鎌倉大学校（後の鎌倉アカデミア）の創立に加わり、第2代校長を務めました。また、日本科学史学会の会長、明治大学教授、横浜市立大学教授・学長など、多くの要職を歴任し、教育と研究の両面で社会に貢献しました。彼の教育に対する情熱は、多くの学生に影響を与えました。

突然の死と遺産

1963年11月9日、三枝は帰宅中に乗車していた国鉄横須賀線の三重衝突事故（鶴見事故）に巻き込まれ、不慮の死を遂げました。享年71歳でした。彼の死は、学界に大きな衝撃を与えました。

中村雄二郎は、著書『共通感覚論』の中で、三枝や戸坂らの業績を振り返り、西田幾多郎の「場所の論理」を乗り越える可能性を指摘しています。また、三枝の蔵書は、横浜市立大学学術情報センターに「三枝文庫」として収蔵され、今も研究者たちに活用されています。

三枝博音の墓は、鎌倉市の東慶寺に、鎌倉アカデミアの同僚である高見順、三上次男の墓と共にあります。彼の思想と学問への情熱は、今もなお多くの人々に影響を与え続けています。

主な著書と翻訳

三枝は、数多くの著書と翻訳を残しました。以下に主なものを挙げます。

共編著

『ヘーゲルの観念論的マルクスの唯物論的弁証法新研究』
『日本講座 第5巻 宗教』
『日本文化の構想と現実』
『三浦梅園集』
『日本の産業につくした人々』
『日本文化史講座 第5巻 宗教と科学の歴史』
『日本哲学思想全書』
『日本近代製鉄技術発達史 八幡製鉄所の確立過程』
『講座・科学技術教育』
『近代日本産業技術の西欧化』
『世界史における日本の文化』

翻訳

『精神科学序説』
『ヘーゲル弁証法』
『記述的分析的心理学』
『技術と文化』
『道具と人類の発展 上』
『デ・レ・メタリカ 近世技術の集大成-全訳とその研究』

伝記
前川清治『鎌倉アカデミア--三枝博音と若きかもめたち』
前川清治『三枝博音と鎌倉アカデミア』
飯田賢一『回想の三枝博音　人間と技術と教育』

書誌
飯田編『三枝博音』＜人物書誌大系27＞

外部リンク

三枝博音：作家別作品リスト - 青空文庫
* 三枝博音訳・解説：ゲオルグ・アグリコラ『デ・レ・メタリカ』（序・１の巻・解説〈遺稿〉） - ARCHIVE

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