戸坂潤

戸坂潤の生涯と哲学

戸坂潤（とさか じゅん、1900年9月27日 - 1945年8月9日）は、日本の哲学者であり、その思想は戦前の日本社会に大きな影響を与えました。東京市神田区に生まれた戸坂は、東京開成中学校、第一高等学校を経て、京都帝国大学文学部哲学科を卒業しました。当初は物理学を専攻していましたが、後に西田幾多郎のもとで哲学を学び、新カント主義の立場から出発しました。

学究生活と思想的転換

大学院進学後、京都高等工芸学校や同志社女子専門学校、神戸高等商業学校などで講師を務めました。また、大日本帝国陸軍少尉としての経歴も持ちます。1929年には大谷大学教授に就任しますが、翌年には検挙され、その後法政大学で教鞭を執ります。しかし、1933年の法政騒動で教養学部を辞職、翌年には法文学部も解職されるなど、不遇な時期を過ごしました。このような経験を経て、戸坂は空間論の研究を進める中で、唯物論の立場へと転向しました。西田幾多郎に師事しながらも、軍部のイデオロギーに観念論的に影響を与えたとして、西田や田辺元らを批判するようになります。

唯物論研究会での活動

1932年、戸坂は唯物論研究会の創始者の一人として活動を始めました。研究組織部長や機関誌『唯物論研究』の編集部長、事務長などを務め、会の中心的な役割を果たしました。唯物論研究会は、当時台頭していた軍国主義やファシズムに対抗する思想的拠点としての役割を担いましたが、1938年には自主解散を余儀なくされ、機関誌も廃刊となりました。

弾圧と獄中死

唯物論研究会の解散後も、戸坂の思想的活動は止むことなく、後継組織により雑誌『学芸』を発行しますが、これも発禁処分を受け、戸坂は永田広志、古在由重らと共に検挙されました。1940年に一度保釈されますが、1944年に再収容され、1945年には東京拘置所から長野刑務所へ移送されました。栄養失調と疥癬から急性腎臓炎を発症し、同年8月9日に獄中で亡くなりました。その死は、かつて批判した観念論哲学者たちからも惜しまれました。

戸坂潤の哲学

戸坂は、唯物論の立場から、観念論哲学を徹底的に批判しました。特に、日本のイデオロギーや思想、社会構造に対する分析は、今日の社会科学研究においても重要な視点を提供しています。彼は、現実社会の変革を目指す実践的な哲学を追求し、その思想は多くの人々に影響を与えました。彼の著作は、『戸坂潤全集』としてまとめられていますが、現在でも『日本イデオロギー論』や『思想と風俗』など、多くの著作が容易に入手可能です。

著作とその影響

戸坂の著作は多岐に渡り、『科学方法論』、『イデオロギーの論理学』、『技術の哲学』、『科学論』、『日本イデオロギー論』、『現代唯物論講話』、『思想と風俗』、『世界の一環としての日本』など、多数の論文や著書を執筆しました。これらの著作は、当時の社会状況に対する深い洞察と、鋭い批判精神に満ちており、読者に大きな影響を与えました。特に、『日本イデオロギー論』は、日本の社会構造や思想のあり方を分析したもので、現在でも多くの読者に読まれています。また、晩年には『認識論』や『読書法』などの著作も残しました。

戸坂潤は、その短い生涯の中で、日本の哲学界に大きな足跡を残しました。彼の思想は、現代においてもなお、私たちに多くの示唆を与え続けています。

主な著作リスト

『科学方法論』 (1929年)
『イデオロギーの論理学』 (1930年)
『イデオロギー概論』 (1932年)
『技術の哲学』 (1933年)
『科学論』 (1935年)
『日本イデオロギー論』 (1935年)
『現代唯物論講話』 (1936年)
『思想と風俗』 (1936年)
『世界の一環としての日本』 (1937年)
『認識論』 (1937年)
* 『読書法』 (1938年)

これらの著作は、彼の哲学と思想を理解する上で不可欠なものです。

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