三河の田楽

三河の田楽（みかわのでんがく）

三河の田楽は、愛知県の北東部、通称「奥三河」と呼ばれる山間地域に古くから伝わる民俗芸能の総称です。具体的には、設楽町田峯、新城市門谷（鳳来寺）、新城市七郷一色黒沢の三つの地区に継承されてきた田楽を指し、これらはまとめて「三河の三田楽」と呼ばれています。それぞれの田楽は地域に根ざした祭礼の一部として行われ、長い歴史の中で独自の形式を育んできました。その文化的価値が認められ、1978年5月22日には国の重要無形民俗文化財に指定されています。これらの田楽は、五穀豊穣や悪霊退散などを願うとともに、地域の共同体を結びつける役割を果たしてきました。

三河の三田楽

三河の三田楽として国指定を受けているのは、以下の三つの田楽です。

田峯田楽（設楽町田峯）

設楽町田峯地区に伝わる田峯田楽は、地区の中心的な存在である田峯観音（高勝寺）の祭礼として毎年2月11日に奉納されます。この田楽は「昼田楽」「夜田楽」「朝田楽」という三部構成で進行するのが特徴です。かつては夜を徹して行われる長大な行事でしたが、現在は夜半で終了する形に変わっています。地元の人々によって大切に受け継がれており、冬の厳寒期に地域の祈りを捧げる行事として、その伝統が守られています。

鳳来寺田楽（新城市門谷）

新城市にある古刹、鳳来寺に伝わる鳳来寺田楽は、寺の歴史とともに歩んできた芸能です。『鳳来寺縁起』によれば、この田楽は鬼を供養するための修正会（しゅしょうえ）として始まったとされています。毎年1月3日に行われますが、1972年までは旧暦の1月3日に実施されていました。演目は能や狂言の要素を取り入れたものを含み、全部で27番の多様な曲が奉納されます。厳粛な雰囲気の中で行われるこの田楽は、修験道の流れをくむ鳳来寺ならではの特徴を持っています。

黒沢田楽（新城市黒沢）

新城市黒沢地区に伝わる黒沢田楽は、地元で「墨付け田楽」あるいは「墨塗り田楽」の愛称で親しまれています。かつては旧暦の1月6日に行われていましたが、現在は毎年2月の第一日曜日に開催されていました。ただし、残念ながらこの田楽は2018年から休止状態となっています。芸能の奉納に先立ち、鍵取り屋敷と呼ばれる荻野家から、その家に伝わる宝刀を先頭にした行列が作られ、奉納場所である峯福寺阿弥陀堂まで練り歩きます。阿弥陀堂では、多彩な37番の芸能が披露されます。墨付けや墨塗りが行われるのは、この芸能の中の特徴的な場面の一つです。一日も早い再開が望まれます。

これらの三つの田楽は、それぞれの地域性や歴史的背景を反映しながらも、奥三河の地に共通する農耕儀礼や信仰に基づく芸能として、日本の無形民俗文化財の中でも重要な位置を占めています。地域の文化を守り伝える上で、極めて価値の高い存在と言えるでしょう。

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