三遊亭圓歌 (2代目)
二代目三遊亭円歌（本名：田中利助）は、1890年4月28日に新潟県新潟市で生を受け、1964年8月25日にその生涯を終えた日本の落語家です。新潟県立新潟中学校を卒業しており、当時の落語家としては珍しく旧制中学出の高い学歴を持っていました。
円歌は裕福な両替商の家に育ち、洋館三階建ての邸宅で暮らしていましたが、祖母が米相場で失敗したことで家は破産します。その後、神奈川県横浜市で貿易商館員として働くも、女性問題で職を辞し、北海道札幌市へ移って京染屋を開業しました。この京染屋が花柳界との取引が中心だったことが、元噺家だった松廼家右喬との出会いにつながり、落語の世界への興味を抱くきっかけとなります。札幌で素人演芸のグループに加わった後、旅回りの一座に入り、無許可で「三遊亭柳喬」と名乗って活動していました。しかし、小樽市での巡業中に偶然二代目三遊亭小圓朝に見出されたことが、正式に落語家となる転機となりました。1914年4月、東京に出て初代三遊亭圓歌に入門し、「三遊亭歌寿美」を名乗ります。1917年には二ツ目に昇進して「三遊亭歌奴」に改名し、1920年4月に真打に昇進。そして1934年10月には、二代目三遊亭円歌を襲名しました。
円歌は落語界で重きをなし、1963年には落語協会の副会長に就任しました。当時、健康上の理由で会長を退いた五代目古今亭志ん生の後任として、円歌を推す声が上がりました。円歌自身も会長就任に意欲を示していましたが、志ん生は芸の実力を重視し、六代目三遊亭圓生を推薦します。この対立を避けるため、志ん生の前任会長であった八代目桂文楽が会長に復帰し、円歌は副会長に留まるという経緯がありました。かねてより腎臓病を患っていた円歌は、1964年7月末にテレビの演芸番組出演中に倒れ、会長の座に就くことなく、同年8月25日に尿毒症のため74歳で死去しました。没後、副会長の職は六代目三遊亭圓生が引き継ぎ、翌年には会長に就任しています。
円歌は、新潟訛りと吃音というハンディキャップを並外れた努力によって克服しました。普段の会話では吃り癖が残ることもあったそうですが、高座に上がると一転して滑らかな弁舌を披露する名人ぶりを発揮。高座中に不意に吃りが出た際は、扇子で床を叩いて調子を取っていたという逸話も残っています。芸風はモダンで明るく、独特の色気がありました。特に女性の描写は絶品と評され、艶笑小噺も巧みに演じました。現存する音源には放送禁止用語も含まれますが、それを聞かせても下品に聞こえないほどの技量を持っていたと言われます。高座では手拭いではなくハンカチを用い、腕時計を女性のように内側に向けて着けたまま演じるなど、独特のスタイルを持っていました。また、余興として手品を披露したり、演目の最後に自ら茶々を入れつつ踊りを見せたりすることもあったと、弟子筋にあたる七代目立川談志が証言しています。歌舞伎の大ファンでもありました。
人柄が良く、多くの人に慕われました。五代目三遊亭圓楽は、六代目圓生に入門する前に、入門の意思はなかったものの円歌の人柄に惹かれて落語家になることについて相談に行ったと語っています。五代目古今亭志ん生とは、互いの子どもが結婚したことで一時期親戚関係にありました（円歌の死後に離婚）。円歌の本名である「田中利助」は、現在でも落語「花色木綿（出来心）」で表札の名前として使われることがあります。晩年は自家用車を自分で運転していましたが、「人にぶつけてはいけない」と時速20km程度という極めて遅い速度で走行し、銀座で警察に罰金を取られたというエピソードもあります。また、70歳を過ぎても積極的に刑務所や老人ホーム、町内会などで慰問公演を行いました。兄弟子にあたる三代目三遊亭金馬からは「小言幸兵衛」とあだ名されるほど厳しく指導され、楽屋から客に聞こえる声で罵倒されることさえありましたが、円歌は越後人らしく怒らず辛抱強く耐えていたそうです。
円歌は非常に多くの持ちネタを持っていました。新作落語では「呼び出し電話」「社長の電話」「空き巣の電話」「ボロタク」「木炭車」「巻き返し」「馬大家」などを得意としました。芝居噺には「七段目」「将門」があり、古典落語では「紺田屋」「写真の仇討」「紋三郎稲荷」「山岡角兵衛」「首ったけ」「姫かたり」「夢の富」「七草」「西行」「羽団扇」「竜宮界龍の都」など、あまり他の噺家が演じないような珍しい演目もレパートリーに加えていました。新作落語で知られていますが、古典落語の持ちネタも滑稽噺、音曲噺、芝居噺、人情噺と幅広く、その数は持ちネタの多さで知られる六代目三遊亭圓生に匹敵するほどだったと、五代目三遊亭圓楽は回想しています。主な弟子には、総領弟子の三代目三遊亭圓歌や、三代目三遊亭金馬門下から移籍した三代目三遊亭歌笑などがいます。
円歌の高座の音源は数多く残されており、レコードやCDとして聴くことができます。落語を演じる映像はNHKにわずかに存在しており、特に1964年6月19日に収録された新作落語「更衣」の映像はカラー化され、2025年3月にNHKのBS4KおよびEテレで「カラーで蘇る二代目円歌」として放送されました。この番組には、円歌の唯一健在の弟子である四代目三遊亭歌笑や、孫弟子にあたる二代目立花家橘之助らが出演し、円歌の芸や人柄を偲んでいます。また、円歌が出演した1952年の映画「呼び出し電話」の映像も放送されました。
異色のキャリアから落語への道
円歌は裕福な両替商の家に育ち、洋館三階建ての邸宅で暮らしていましたが、祖母が米相場で失敗したことで家は破産します。その後、神奈川県横浜市で貿易商館員として働くも、女性問題で職を辞し、北海道札幌市へ移って京染屋を開業しました。この京染屋が花柳界との取引が中心だったことが、元噺家だった松廼家右喬との出会いにつながり、落語の世界への興味を抱くきっかけとなります。札幌で素人演芸のグループに加わった後、旅回りの一座に入り、無許可で「三遊亭柳喬」と名乗って活動していました。しかし、小樽市での巡業中に偶然二代目三遊亭小圓朝に見出されたことが、正式に落語家となる転機となりました。1914年4月、東京に出て初代三遊亭圓歌に入門し、「三遊亭歌寿美」を名乗ります。1917年には二ツ目に昇進して「三遊亭歌奴」に改名し、1920年4月に真打に昇進。そして1934年10月には、二代目三遊亭円歌を襲名しました。
落語協会での活動と最期
円歌は落語界で重きをなし、1963年には落語協会の副会長に就任しました。当時、健康上の理由で会長を退いた五代目古今亭志ん生の後任として、円歌を推す声が上がりました。円歌自身も会長就任に意欲を示していましたが、志ん生は芸の実力を重視し、六代目三遊亭圓生を推薦します。この対立を避けるため、志ん生の前任会長であった八代目桂文楽が会長に復帰し、円歌は副会長に留まるという経緯がありました。かねてより腎臓病を患っていた円歌は、1964年7月末にテレビの演芸番組出演中に倒れ、会長の座に就くことなく、同年8月25日に尿毒症のため74歳で死去しました。没後、副会長の職は六代目三遊亭圓生が引き継ぎ、翌年には会長に就任しています。
芸風と人物像
円歌は、新潟訛りと吃音というハンディキャップを並外れた努力によって克服しました。普段の会話では吃り癖が残ることもあったそうですが、高座に上がると一転して滑らかな弁舌を披露する名人ぶりを発揮。高座中に不意に吃りが出た際は、扇子で床を叩いて調子を取っていたという逸話も残っています。芸風はモダンで明るく、独特の色気がありました。特に女性の描写は絶品と評され、艶笑小噺も巧みに演じました。現存する音源には放送禁止用語も含まれますが、それを聞かせても下品に聞こえないほどの技量を持っていたと言われます。高座では手拭いではなくハンカチを用い、腕時計を女性のように内側に向けて着けたまま演じるなど、独特のスタイルを持っていました。また、余興として手品を披露したり、演目の最後に自ら茶々を入れつつ踊りを見せたりすることもあったと、弟子筋にあたる七代目立川談志が証言しています。歌舞伎の大ファンでもありました。
人柄が良く、多くの人に慕われました。五代目三遊亭圓楽は、六代目圓生に入門する前に、入門の意思はなかったものの円歌の人柄に惹かれて落語家になることについて相談に行ったと語っています。五代目古今亭志ん生とは、互いの子どもが結婚したことで一時期親戚関係にありました（円歌の死後に離婚）。円歌の本名である「田中利助」は、現在でも落語「花色木綿（出来心）」で表札の名前として使われることがあります。晩年は自家用車を自分で運転していましたが、「人にぶつけてはいけない」と時速20km程度という極めて遅い速度で走行し、銀座で警察に罰金を取られたというエピソードもあります。また、70歳を過ぎても積極的に刑務所や老人ホーム、町内会などで慰問公演を行いました。兄弟子にあたる三代目三遊亭金馬からは「小言幸兵衛」とあだ名されるほど厳しく指導され、楽屋から客に聞こえる声で罵倒されることさえありましたが、円歌は越後人らしく怒らず辛抱強く耐えていたそうです。
多彩な演目と弟子たち
円歌は非常に多くの持ちネタを持っていました。新作落語では「呼び出し電話」「社長の電話」「空き巣の電話」「ボロタク」「木炭車」「巻き返し」「馬大家」などを得意としました。芝居噺には「七段目」「将門」があり、古典落語では「紺田屋」「写真の仇討」「紋三郎稲荷」「山岡角兵衛」「首ったけ」「姫かたり」「夢の富」「七草」「西行」「羽団扇」「竜宮界龍の都」など、あまり他の噺家が演じないような珍しい演目もレパートリーに加えていました。新作落語で知られていますが、古典落語の持ちネタも滑稽噺、音曲噺、芝居噺、人情噺と幅広く、その数は持ちネタの多さで知られる六代目三遊亭圓生に匹敵するほどだったと、五代目三遊亭圓楽は回想しています。主な弟子には、総領弟子の三代目三遊亭圓歌や、三代目三遊亭金馬門下から移籍した三代目三遊亭歌笑などがいます。
メディアに残された記録
円歌の高座の音源は数多く残されており、レコードやCDとして聴くことができます。落語を演じる映像はNHKにわずかに存在しており、特に1964年6月19日に収録された新作落語「更衣」の映像はカラー化され、2025年3月にNHKのBS4KおよびEテレで「カラーで蘇る二代目円歌」として放送されました。この番組には、円歌の唯一健在の弟子である四代目三遊亭歌笑や、孫弟子にあたる二代目立花家橘之助らが出演し、円歌の芸や人柄を偲んでいます。また、円歌が出演した1952年の映画「呼び出し電話」の映像も放送されました。
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